ホトトギスは、平地から山地の明るい林に生息するというが忍川周辺には、生息していません。ホトトギスは、鳴き声が「特許許可局」ということで有名な鳥です。ただ語尾は不安定で「特許許可」になったり「特許許可局」なったりします。身長は28cm程度で、胸は白系、背中は茶色系、頭は薄茶色系です。ホトトギスは、渡り鳥で、初夏に日本全国の山や平地に飛来して、寒い冬は暖かい国に渡りをします。卵は、チョコレート色で、卵の似ているウグイズなどの巣に入れて抱卵される。これを托卵(たくらん)という。ウグイス以外にもホオジロやアオジなどにも托卵する。

 

万葉集においてホトトギスが出てくる歌は、151首あり、万葉集の中で歌われた鳥としては最も多い。作者の合計人数は30人です。作者の中心は大伴家持であり、大伴家持の歌が、62首あります。大伴家持以外の大伴姓の人の歌が18首あります。37首の作者は不明です。これらの合計歌数は、111首になります。残りの人たちの中には、大伴家持の友人だったり、歴史に深く関係した皇室関係の人だったりしています。また、ホトトギスは大伴家持を中心として人たちが和歌の「お題」にすることが多かったことが、ホトトギスの歌がたくさん作られた理由であると思います。

 

 

万葉集では、たくさんの歌で5月の節句の薬玉を作る月にホトトギスは飛来して鳴き声を響かせると歌われています。多くの歌で、ホトトギスの声を薬玉に擦り込むと歌われていて、当時の節句の一つの行事になっていたようです。5月というのは旧暦ですので、新暦でいうと、5月の中旬から月末の頃になります。ホトトギスは橘の花や藤の花の近くに見られて、歌でもこの組み合わせで歌われるています。藤の花の揺れる様子は、藤波と呼ばれ、ホトトギスは藤波に見え隠れすると歌われます。

 

ホトトギス以外の歌では、情景を形容するものとして鳥を使ったりすることが多く、鳥そもものが歌の中心となっているものは多くありません。しかし、ホトトギスの歌では、ホトトギスそのものを歌ったり、自分の気持ちをホトトギスにかけて歌ったものが多い。実際は、多いというよりも大半です。このように、ホトトギスのことを歌いながら自分の気持ちを表現すしていることが、ホトトギスの歌の特徴です。このような理由で、ホトトギスの歌のバリエーションは、他の鳥の歌に比較して非常に多様化しています。

第2巻112

いにしへに 恋ふらむ鳥は 霍公鳥 けだしや鳴きし 我が恋ふるごと

いにしへに こふらむとりは ほととぎす けだしやなきし あがこふるごと

意味:

昔に 心引かれている鳥は ホトトギスです もしかしたら鳴いているのかも知れません 私が恋ているように

作者:

額田王(ぬかたのおおきみ)この歌には、額田王、和(こた)へ奉る歌というタイトルがあるから、この前の歌のなぞを解いた歌です。この112番の歌はなぞときの歌で、その鳥はホトトギスだと返しているのです。

なぞかけをした歌は、次の111番の歌で、この歌を作ったのは弓削皇子です。

第2巻111

吉野の宮に幸(いま)す時に、弓削皇子の額田王に贈与る歌

いにしへに 恋ふる鳥かも 弓弦葉(ゆづるは)の 御井(みゐ)の上より 鳴き渡り行く

意味:

遠い昔に 心引かれる鳥でしょうか 弓弦葉の 御井の上より 鳴き渡り行ったのは

天武天皇の第九子と言われるが不遇であり27才程度で薨去されたといわれる。それ故に弓削皇子は、いにしへに恋ふる鳥だったのであり、弓弦葉の御井の上より鳴き渡り行ったのは弓削皇子自身だったのです。それを理解した額田王がこの不遇な鳥は、中国で懐古の悲鳥呼ばれる霍公鳥だと応えたのです。天智天皇亡き後、額田王は弓削皇子の気持ちを理解するところがあったようです。「弓弦葉の御井の上より」は弓弦葉の去年の葉が今年の新葉を差し上げるような形になっていて、親から子への世代交替(ゆずる)を表現していますが、弓削皇子の場合は、この世代交代がうまく行かず、飛び立って行く鳥を自分に重ねています。

 

ユズリハ

弓弦葉は、現在一般的には、ユズリハと呼ばれていますが、弓弦葉(ユズルハ)は別称になっています。写真のように去年の葉が、下がって今年の葉を差し上げています。

第3巻423

1   つのさはふ 磐余の道を            つのさはふ いはれのみちを
2   朝さらず 行きけむ人の            あささらず ゆきけむひとの
3   思ひつつ 通ひけまくは            おもひつつ かよひけまくは
4   霍公鳥 鳴く五月には             ほととぎす なくさつきには
5   あやめぐさ 花橘を              あやめぐさ はなたちばなを
6   玉に貫き(貫き交へ) かづらにせむと     たまにぬき (ぬきまじへ) かづらにせむと
7   九月の しぐれの時は             ながつきの しぐれのときは
8   黄葉を 折りかざさむと            もみちばを をりかざさむと
9   延ふ葛の いや遠長く(葛の根の いや遠長に) はふくずの いやとほながく(くずのねの いやとほながに)
10  万代に 絶えじと思ひて(大船の 思ひたのみて)よろづよに たえじとおもひて(おほぶねの おもひたのみて)
11  通ひけむ 君をば明日ゆ(君を明日ゆは)    かよひけむ きみをばあすゆ (きみをあすゆは)
12  外にかも見む                 よそにかもみむ

意味:

1   石のごつごつした 磐余の道を
2   朝いつも 通っていたあなたが
3   思いながら 通ったであろうことは
4   ホトトギスの 鳴く五月には
5   アヤメ 花橘を
6   くす玉にして 髪飾りにしようと
7   九月の 冷たい雨の時は
8   もみじを 折って髪飾りにしようと
9   はう葛のように 本当に遠く長く
10  限りなく長い年月に このような生活が絶えることはないと思って
11  通っただろう 君を明日から この世の外の人として見るのか

作者:

山前王(やまさきのおおきみ)ただし、この歌には石田王が卒(みまか)りし時に山前王が悲しみて作る歌というタイトルが付いている。ただ、歌の末尾には、或いは柿本人麻呂作であるという説明がついているので柿本人麻呂作の可能性もある。山前王(男性)は天武天皇の孫、忍壁皇子の子、石田王(男性)は山前王の兄弟である。万葉集の420から425は石田王がなくなったことを、悲しんで歌った歌です。420から422の作者は丹生王となっていますが、これは石田王の妻で丹生女王であるといわれています。423から425は山前王の歌といわれています。これ以外に丹生女王が作った歌は万葉集で3首ありますが、いづれも大伴旅人に贈った歌です。歌の内容は恋の歌とばかりは言い切れない微妙なものですが、難解です。かつて恋したがその後も含めて複雑なものだったのでしょう。

第6巻1058

狛山に 鳴く霍公鳥 泉川 渡りを遠み ここに通はず ( 渡り遠みか通はずあるらむ)

こまやまに なくほととぎす いづみがは わたりをとほみ ここにかよはず   (わたりとほみか かよはずあるらむ)

意味:

狛山(京都府木津川市)に 鳴くホトトギスは 泉川(木津川のこと)が 渡るには遠いので ここには来ない

作者:

田辺福麻呂(たなべのさきまろ)田辺福麻呂歌集にある歌です。この歌の前に25首の歌が田辺福麻呂歌集から取られていま

す。すべて宮廷儀礼歌です。

第8巻1465

霍公鳥 いたくな鳴きそ 汝が声を 五月の玉に あへ貫くまでに

ほととぎす いたくななきそ ながこゑを さつきのたまに あへぬくまでに

意味:

ホトトギスよ あまり激しく鳴かないでおくれ お前の声を 五月の節句の薬玉に 合わせて通す日までは

作者:

藤原夫人(ふじわらのぶにん)藤原夫人とは五百重娘(いおえのいらつめ)という飛鳥時代の女性で藤原鎌足の子で大原大刀自(おおはらのおおとじ)とも呼ばれている。ホトトギスは「特許許可局」という鳴き声で有名な鳥です。実際には「とっきょきょかきょ」だったり、「とっきょきょかきょく」になったりしています。万葉の時代には、この歌のようにホトトギスの声を節句の薬玉(花飾り)を作るときに混ぜるということが、考えられていたようです。この歌は、ホトトギスを歌った万葉集最古の歌です。

第8巻1466

神奈備の 石瀬の社の 霍公鳥 毛無の岡に いつか来鳴かむ

かむなびの いはせのもりの ほととぎす けなしのをかに いつかきなかむ

意味:

神が天から降りてよりつく 岩の多い川の浅瀬の社の ホトトギスが 禿山の岡に いつ来て鳴くのでしょうか

作者:

志貴皇子(しきのみこ)志貴皇子については、3.1章の第1巻64でも触れたが、天智天皇の子であっが、壬申の乱で天皇が天智天皇系から天武天皇系に移ったために天皇とは無縁で和歌等の道に進んた。しかし、薨去から50年以上後に志貴皇子の第6子が光仁天皇に即位した。この結果、志貴皇子の系統が現在の天皇まで続くことになった。また、11.2章の第3巻239では天武天皇は、次の天皇として草壁皇子を指定して他の皇子がこれを助けて争わないとした吉野の盟約というものがあるが、これに参加したのは、草壁皇子、大津皇子、高市皇子、忍壁皇子、川島皇子、志貴皇子でした。しかし、草壁皇子は若くして亡くなったために天皇になれなかった。その他の皇子も天皇にはなれなかった。天皇になれなかった理由の最大の原因はらが天武天皇の皇后(後の持統天皇)の子ではなかったからです。天皇になる可能性のあった大津皇子などは、謀反の罪で自害に追い込まれている。

1466の歌の意味は、「自分(志貴皇子)はいつ天皇になれるのでしょうか」と歌っているのです。この歌でホトトギスは天皇で、禿山の岡は、冷遇されている志貴皇子です。こんな歌が歌えるものでしょうか。大津皇子の例など考えるとあまりにも危険な内容です謀反の計画があるとして暗殺の対象になる。そんな自覚はなかったのでしょうか。最初に説明したように、志貴皇子がなくなってから50年以上後に、志貴皇子の子供が光仁天皇になり、志貴皇子は春日宮御宇天皇の追尊を受けた。そんなところから考えると後の時代に光仁天皇の即位を見た別人が歌ったのではないかと考えても不思議はないような気がします。

第8巻1467

霍公鳥 なかる国にも 行きてしか その鳴く声を 聞けば苦しも

ほととぎす なかるくににも ゆきてしか そのなくこゑを きけばくるしも

意味:

ホトトギスの いない国にでも 行ってしまいたいものだ その鳴く声を 聞けば苦しいことよ

作者:

弓削皇子(ゆげのみこ)天武天皇の第九皇子であるが、詳細は書かないが、難しい人生を送ったようです。

第8巻1468

霍公鳥 声聞く小野の 秋風に 萩咲きぬれや 声の乏しき

ほととぎす こゑきくをのの あきかぜに はぎさきぬれや こゑのともしき

意味:

ホトトギスの 声の聞こえる小さな野では 秋風に 萩が咲いてしまったからかそんな季節でないのに 声が少ない

作者:

小治田広瀬王(おわりだのひろせおう)広瀬王は敏達天皇の孫で、現在の明日香村付近の小治田に住んでいた。この歌には、小治田の広瀬王が霍公鳥の歌一首というタイトルが付いている。

第8巻1469

あしひきの 山霍公鳥 汝が鳴けば 家なる妹し 常に偲はゆ

あしひきの やまほととぎす ながなけば いへなるいもし つねにしのはゆ

意味:

すそを長く引く 山のホトトギス あなたが鳴けば 家にいる妻を いつも自然に思い出される

作者:

この歌の作者は不明です。仏門に入って十戒を受けたばかりの僧(沙弥(さみ))が作ったホトトギスの歌というタイトルが付いている。

第8巻1470

もののふの 石瀬の社の 霍公鳥 今も鳴かぬか 山の常蔭に

もののふの いはせのもりの ほととぎす いまもなかぬか やまのとかげに

意味:

武人たちの 岩の多い川の浅瀬の社の ホトトギス 今も鳴いて欲しいな 山のいつも日の当たらない場所に

作者:

刀理宣令(とりのせんりょう、とりのみのり、とりののぶよし)渡来系氏族で、聖武天皇に仕えた。タイトルは、刀理宣令の歌。

第8巻1472

霍公鳥 来鳴き響もす 卯の花の 伴にや来しと 問はましものを

ほととぎす きなきとよもす うのはなの ともにやこしと とはましものを

意味:

ホトトギスが やって来て鳴き響かせている うつぎの花と 一緒にやって来たのかと 問いて見れば良いですね

作者:

石上堅魚(いそのかみのかつお)奈良時代の官人。728年頃、大伴旅人(おおとものたびと)大宰帥として妻・大伴郎女を伴って大宰府に赴任したがその年に大伴郎女が死去した。この際に石上堅魚は式部大輔(たいふ)として弔問使のために大宰府へ行った。このことから、大伴旅人と大伴郎女が仲良くいつも一緒にいたことから、ホトトギスとうつきの花を大伴旅人と大伴郎女に掛けて歌ったのです。

 

第8巻1473

橘の 花散る里の 霍公鳥 片恋しつつ 鳴く日しぞ多き

 

たちばなの はなちるさとの ほととぎす かたこひしつつ なくひしぞおほき

意味:

たちばな(みかんの一種)の 花散る里の ホトトギス 片思いしながら 鳴く日が多い 

作者:

大伴旅人(おおとものたびびと) たちばなとホトトギスは、取り合わせの風景とされたが、前の歌と同様に大伴旅人と大伴郎女の組み合わせを暗示している。片恋は、大伴旅人が亡くなった大伴郎女を思っていることを歌っている。この歌のタイトルは大宰師大伴卿が和(こた)える歌となっていて、1472の歌への応答です。

京都御所の紫宸殿前の橘(右近の橘)

 

第8巻1474

今もかも 大城の山に 霍公鳥 鳴き響むらむ 我れなけれども

 

いまもかも おほきのやまに ほととぎす なきとよむらむ われなけれども

意味:

今も 大城山(大宰府近く)で ホトトギスが 鳴き騒いでいるでしょう 私はいないですけれど

作者:

大伴坂上女郎(おおとものさかのうえのいらつめ)大宰府で妻を亡くした大伴旅人のところに嫁ぐ(何度目かの再婚)。万葉集中に85首の歌を残す。この歌のタイトルは、大伴坂上郎女、築紫の大城の山を思う歌となっている。

 

第8巻1475

何しかも ここだく恋ふる 霍公鳥 鳴く声聞けば 恋こそまされ

 

なにしかも ここだくこふる ほととぎす なくこゑきけば こひこそまされ

意味:

何でそのように こんなにも恋うるのか ホトトギスの 鳴き声を聞けば 恋に夢中になってしまう

作者:

大伴坂上女郎(おおとものさかのうえのいらつめ)この歌のタイトルは、大伴坂上郎女のホトトギスの歌となっている。

 

第8巻1476

ひとり居て 物思ふ宵に 霍公鳥 こゆ鳴き渡る 心しあるらし

 

ひとりゐて ものもふよひに ほととぎす こゆなきわたる こころしあるらし

意味:

一人でいると 物を思う晩に ホトトギスが ひときわ大声で鳴き渡る わたしのことに気を使っているらし

作者:

小治田朝臣広耳(おはりだあそみひろみみ)伝未詳。

 

第8巻1477

卯の花も いまだ咲かねば 霍公鳥 佐保の山辺に 来鳴き響もす

 

うのはなも いまださかねば ほととぎす さほのやまへに きなきとよもす

意味:

卯の花も まだ咲いていないのに ホトトギスが 佐保山の傍に 来て鳴き騒いでいます

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、大伴家持のホトトギスの歌となっています。佐保山(奈良市)の傍らとは、大伴氏の邸宅のあったところです。

 

第8巻1480

我が宿に 月おし照れり 霍公鳥 心あれ今夜 来鳴き響もせ

 

わがやどに つきおしてれり ほととぎす こころあれこよひ きなきとよもせ

意味:

私の家に 月が照り渡ったよ ホトトギスよ 情けあれば今夜 来て鳴いて声を響かせておくれ

作者:

大伴書持(おおとものふみもち)大伴書持は、大伴旅人(たびと)の子で大伴家持の弟です。

 

第8巻1481

我が宿の 花橘に 霍公鳥 今こそ鳴かめ 友に逢へる時

 

わがやどの はなたちばなに ほととぎす いまこそなかめ ともにあへるとき

意味:

私の家の 花橘に いるホトトギスよ 今こそ鳴きなさい 友に会えるときだから

作者:

大伴書持(おおとものふみもち)ホトトギスは特許許可局と鳴きます。

 

第8巻1482

皆人の 待ちし卯の花 散りぬとも 鳴く霍公鳥 我れ忘れめや

 

みなひとの まちしうのはな ちりぬとも なくほととぎす われわすれめや

意味:

皆が 待っていた卯の花が 散ってしまっても 鳴くホトトギスを 私は忘れるだろうか、いや忘れられない

作者:

大伴清縄(おおとものきよつな)この人については未伝詳。

 

第8巻1483

我が背子が 宿の橘 花をよみ 鳴く霍公鳥 見にぞ我が来し

 

わがせこが やどのたちばな はなをよみ なくほととぎす みにぞわがこし

意味:

宴席の主人の 家の橘の 花を慕って 鳴くホトトギス これを見るために私は来ました

作者:

奄君諸立(あむのきみもろたち)歌のタイトルは、奄君諸立が歌一首となっています。奄君諸立についてはどんな人か記録がありません。この歌で我が背子は、歌会を主催した主人です。

 

第8巻1484

霍公鳥 いたくな鳴きそ ひとり居て 寐の寝らえぬに 聞けば苦しも

 

ほととぎす いたくななきそ ひとりゐて いのねらえぬに きけばくるしも

意味:

ホトトギス そんなに鳴かないでおくれ ひとりでいて 寝ても寝ることができず 聞くのが苦しい

作者:

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)この歌のタイトルは大伴坂上郎女が歌一首です。

 

第8巻1486

我が宿の 花橘を 霍公鳥 来鳴かず地に 散らしてむとか

 

わがやどの はなたちばなを ほととぎす きなかずつちに ちらしてむとか

意味:

私の家の 花橘を ホトトギスは 来もしないで鳴きもしないで地に 散らしてしまうおというのか 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)ホトトギスは、花橘、卯(う)の花、藤(ふじ)の花、菖蒲などと同時に歌われることが多い。ホトトギスは、カッコウ目・カッコウ科に分類され、4-5月頃に夏鳥として、九州以北に渡来する。

 

 

第8巻1487

霍公鳥 思はずありき 木の暗の かくなるまでに 何か来鳴かぬ

 

ほととぎす おもはずありき このくれの かくなるまでに なにかきなかぬ

意味:

ホトトギスよ 私は思いもしなかった 夏の木が茂って暗く このようになるまでに 何故来て鳴かないのか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌と前に歌を合わせて、タイトルは大伴家持、ホトトギスの遅く鳴くを恨(うら)むる歌となっています。

 

第8巻1488

いづくには 鳴きもしにけむ 霍公鳥 我家の里に 今日のみぞ鳴く

 

いづくには なきもしにけむ ほととぎす わぎへのさとに けふのみぞなく

意味:

どこか別の場所では 鳴いてもいただろう ホトトギスは 我が家の里には 今日はじめて鳴くよ

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、大伴家持、ホトトギスをよろこぶる歌となっています。

 

第8巻1490

霍公鳥 待てど来鳴かず 菖蒲草 玉に貫く日を いまだ遠みか

 

ほととぎす まてどきなかず あやめぐさ たまにぬくひを いまだとほみか

意味:

ホトトギスを 待っても来て鳴かない アヤメの花を 薬玉に混ぜて貫く日(端午の節句)は いまだに遠いか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、大伴家持、ホトトギスとなっている。

菖蒲

 

 

第8巻1491

卯の花の 過ぎば惜しみか 霍公鳥 雨間も置かず こゆ鳴き渡る

 

うのはなの すぎばをしみか ほととぎす あままもおかず こゆなきわたる

意味:

卯の花が 過ぎてしまうの惜しんでか ホトトギスは 雨の間もいとわずに よく鳴き渡ります

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、大伴家持、雨日にホトトギスの鳴くのを聞くとなっています。

 

第8巻1493

我が宿の 花橘を 霍公鳥 来鳴き響めて 本に散らしつ

 

わがやどの はなたちばなを ほととぎす きなきとよめて もとにちらしつ

意味:

私の家の 花橘を ホトトギスよ 来て鳴き声を響かせて 根元に散らばらせてしまっておくれ 

作者:

大伴村上(おおとものむらかみ)万葉集に4首の歌がある。こののタイトルは、大伴村上が橘の歌一首となっている。

 

第8巻1494

夏山の 木末の茂に 霍公鳥 鳴き響むなる 声の遥けさ

 

なつやまの こぬれのしげに ほととぎす なきとよむなる こゑのはるけさ

意味:

夏山の こずえ(枝の先端)の茂っているところの ホトトギス 鳴き響く 声が遠くに届くことよ

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、大伴家持がホトトギスの歌となっている。

 

第8巻1495

あしひきの 木の間立ち潜く 霍公鳥 かく聞きそめて 後恋ひむかも

 

あしひきの このまたちくく ほととぎす かくききそめて のちこひむかも

意味:

山の 木木の間に止まったり隠れたりする ホトトギスよ このように聞きはじめ そして密かに恋してしまうかも

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、前の歌と同じ大伴家持がホトトギスの歌となっている。

 

第8巻1497

筑波嶺に 我が行けりせば 霍公鳥 山彦響め 鳴かましやそれ

 

つくはねに わがゆけりせば ほととぎす やまびことよめ なかましやそれ

意味:

筑波山に 私がもし行ったならば ホトトギスよ 山彦を響かせて さあ鳴いておくれ  

作者:

高橋虫麻呂(たかはし の むしまろ)この歌のタイトルは、筑波山にのぼらざりしことを惜しむ歌となっている。高橋虫麻呂の歌には、鳥を歌った歌や、地方の伝説を歌った歌が多い。高橋虫麻呂の歌は、万葉集に36首あり、これまでも何度も取り上げて来た。

 

第8巻1498

暇なみ 来まさぬ君に 霍公鳥 我れかく恋ふと 行きて告げこそ

 

いとまなみ きまさぬきみに ほととぎす あれかくこふと ゆきてつげこそ

意味:

暇がないので 来られない君に ホトトギスよ 私がこんなにも恋していると 行って告げてよ

作者:

大伴坂上郎女(おおとものさかのうえのいらつめ)この歌のタイトルは、単純で大伴坂上郎女歌一首となっています。万葉集中に、大伴坂上郎女の歌は85首あり、万葉集中で女性の作った歌の数では最大です。

 

第8巻1499

言繁み 君は来まさず 霍公鳥 汝れだに来鳴け 朝戸開かむ

 

ことしげみ きみはきまさず ほととぎす なれだにきなけ あさとひらかむ

意味:

人のうわさが激しいので 君は来ない ホトトギスよ おまえはせめて来て鳴いておくれ 朝戸を開けるので

作者:

大伴四綱(おおともの よつな) 万葉集に大伴四綱の歌は5首ある。大伴旅人の部下として、大宰府で防人の管理(防人司佑)を行っていた。

 

第8巻1501

霍公鳥 鳴く峰の上の 卯の花の 憂きことあれや 君が来まさぬ

 

ほととぎす なくをのうへの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ

意味:

ホトトギスが 鳴く峰の上の 卯の花のように 悲しいことがあるのだろうか 君は来ません

作者:

小治田朝臣広耳(おはりだのあそみひろみみ)この人の詳細は不明です。この歌で卯の花のように悲しいことがあるのだろうかの部分の意味は明確でありませんが、花の開花が遅れているなどをいうのでしょうか。

 

第8巻1505

霍公鳥 鳴きしすなはち 君が家に 行けと追ひしは 至りけむかも

 

ほととぎす なきしすなはち きみがいへに ゆけとおひしは いたりけむかも

意味:

ほととぎすが 鳴いたその時 君の家に 使いとして行けと追ったが 行けたでしょうか

作者:

大神女郎(おおみわのいらつめ)大神女郎の歌は、17.1章の618にもあるが、いずれも大神郎女が大伴宿祢家持に贈ったものの。

 

第8巻1506

故郷の 奈良思の岡 霍公鳥 言告げ遣りし いかに告げきや

ふるさとの ならしのをかの ほととぎす ことつげやりし いかにつげきや
意味: 
ふるさとの 奈良思の岡の ホトトギスに 妹坂上大嬢様への言葉を告げてやったが どのように告げてきましたか

作者:
大伴田村大嬢(おおとものたむらのおおおとめ)この歌のタイトルは、大伴田村大嬢が妹坂上大嬢に贈る歌一首となっている。この歌の奈良思の岡の場所は不明です。

第8巻1507

   いかといかと ある我が宿に        いかといかと あるわがやどに
   百枝さし 生ふる橘            ももえさし おふるたちばな
   玉に貫く 五月を近み           たまにぬく さつきをちかみ
   あえぬがに 花咲きにけり         あえぬがに はなさきにけり
   朝に日に 出で見るごとに         あさにけに いでみるごとに
   息の緒に 我が思ふ妹に          いきのをに あがおもふいもに
   まそ鏡 清き月夜に            まそかがみ きよきつくよに
   ただ一目 見するまでには         ただひとめ みするまでには
   散りこすな ゆめと言ひつつ        ちりこすな ゆめといひつつ
10  ここだくも 我が守るものを        ここだくも わがもるものを
11  うれたきや 醜霍公鳥           うれたきや しこほととぎす
12  暁の うら悲しきに            あかときの うらがなしきに
13  追へど追へど なほし来鳴きて       おへどおへど なほしきなきて
14  いたづらに 地に散らせば         いたづらに つちにちらせば
15  すべをなみ 攀ぢて手折りつ 見ませ我妹子 すべをなみ よぢてたをりつ みませわぎもこ

意味:

1   どうなっているかと心に掛けている 私の家に
   たくさんの繁茂した枝が伸びて 育った橘(みかんの一種)
   アヤメを玉に貫く 五月が近いので
   今にも落ちてしまうばかりに 花が咲いています
   朝に昼に 出で見る度に
   命がけで 私が思ふ恋人に
   鏡のように澄んだ 清き月夜に
   ただ一目 見るまでは
   散らないで欲しい ゆめと言ひつつ
10  こんなにも 私が守るものを
11  腹立たしいことに 憎らしいホトトギス
12  夜明け前の うら悲しい時間に
13  追っても追っても なほ来て鳴く
14  むなしく 地に散らせば
15  どうしようもなく つかんで引き寄せて手で折ってやる 見てください私の恋人よ

作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは大伴家持が橘の花を取って坂上大嬢に贈る歌一首となっています。大伴家持は万葉集で、48首の歌を坂上大嬢に送っています。坂上大嬢は10首の歌を大伴家持に送っています。この歌の3行目の「アヤメを玉に貫く五月が近いので」の意味は、かつて5月の節句には、アヤメの花で縛ってくす玉を作ったということで、その風習が歌われています。

 

第8巻1509

妹が見て 後も鳴かなむ 霍公鳥 花橘を 地に散らしつ

 

いもがみて のちもなかなむ ほととぎす はなたちばなを つちにちらしつ

意味:

あなたが見た 後で鳴くことが良かったが ホトトギスは 橘の花を 見る前に地に散らしてしまった

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、1507の長歌の反歌で、長歌の1507の概要が短歌で歌われています。

 

第8巻1755

この歌は、21.2章にも現れます。

   鴬の 卵の中に         うぐひすの かひごのなかに
   霍公鳥 独り生れて       ほととぎす ひとりうまれて
   己が父に 似ては鳴かず     ながちちに にてはなかず
   霍公鳥 独り生れて       ほととぎす ひとりうまれ
   己が母に 似ては鳴かず     ながははに にてはなかず
   卯の花の 咲きたる野辺ゆ    うのはなの さきたるのへゆ
   飛び翔り 来鳴き響も      とびかけり きなきとよもし
   橘の 花を居散らし       たちばなの はなをゐちらし
   ひねもすに 鳴けど聞きよし   ひねもすに なけどききよし
10  賄はせむ 遠くな行きそ     まひはせむ とほくなゆきそ
11  我が宿の 花橘に 住みわたれ鳥 わがやどの はなたちばなに すみわたれとり

意味:

   ウグイスの たまごの中に
   ホトトギスは 一人で生れて
   自分の父と 同じようには鳴かない
   ホトトギスは 一人で生れて
   自分>の母と 同じようには鳴かない
   卯の花が 咲く野辺から
   飛びまわり 来て鳴いて騒ぎ
   橘の 花をメチャクチャにし
   一日中 鳴くけれど聞いていて快い
10  準備はしないで 遠くへ行くな
11  私の家の 橘の花に 住みつづけてよ、鳥よ

作者:

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)この歌のタイトルは、ホトトギスを詠むとなっている。鳥好きの虫麻呂の鳥に対する気持ちが良く表れています。

 

第8巻1756

かき霧らし 雨の降る夜を 霍公鳥 鳴きて行くなり あはれその鳥

 

かききらし あめのふるよを ほととぎす なきてゆくなり あはれそのとり

意味:

神が空をかき曇らせる 雨の降る夜であるのに ホトトギスは 鳴きながら飛んで行く あわれだその鳥は

作者:

高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)この歌は、前の1755に対する反歌になっています。よって、1755で、ホトトギスよ何でも良いから、ここにいてくれと歌いましたが、その歌の結論で、空の状態が最も悪い時に、飛んで行ってしまったと、劇的な結末を歌っています。高橋虫麻呂は、地方の民話を複数歌にしていますが、この歌も民話でないにしても物語的に歌を仕上げています。

 

第8巻1937

1   大夫の 出で立ち向ふ        ますらをの いでたちむかふ
2   故郷の 神なび山に         ふるさとの かむなびやまに
3   明けくれば 柘のさ枝に       あけくれば つみのさえだに
4   夕されば 小松が末に        ゆふされば こまつがうれに
5   里人の 聞き恋ふるまで       さとびとの ききこふるまで
6   山彦の 相響むまで         やまびこの あひとよむまで
7   霍公鳥 妻恋ひすらし さ夜中に鳴く ほととぎす つまごひすらし さよなかになく

意味:

1   立派な男性が 外に出で立ち向う
2   故郷の 神の鎮座する山に
3   夜が明けると ヤマグワ(桑の一種)の枝に
4   夕方が来ると 小さい松の枝先に
5   里の人が 聞いて好きになるまで
6   山彦が 互いに響きあうまで
7   ホトトギスが 妻を恋しているらしく 真夜中に鳴く

作者:

この歌の作者は不明です。この歌のタイトルは鳥を詠むとなっています。17章の618番の歌では、チドリの歌で、夜中に気落ちしているときに千鳥がやたらと鳴き続けるという歌がありましたが、ここでは、夜中に鳴くホトトギスについて歌っています。ホトトギスは夜中に飛びながら鳴くようです。

 

第8巻1938

旅にして 妻恋すらし 霍公鳥 神なび山に さ夜更けて鳴く

 

たびにして つまごひすらし ほととぎす かむなびやまに さよふけてなく

意味:

旅において 妻を恋するらしい ホトトギスは 神なび山で 夜が更けてから鳴く

作者:

この歌の作者は不明です。この歌は、前の1937番の反歌です。1937の内容をまとめています。

 

第10巻1939

霍公鳥 汝が初声は 我れにもが 五月の玉に 交へて貫かむ

 

ほととぎす ながはつこゑは われにもが さつきのたまに まじへてぬかむ

意味:

ホトトギスよ あなたの初声は 私に是非ください 5月の節句の薬玉をつくるとき あなたの声を混ぜて作ります 

作者:

この歌の作者は不明です。5月の節句の薬玉のことは何度も出てきますが、節句のときに香料を入れた袋に菖蒲などの花を刺して薬玉にするというものです。この時にホトトギスの声を一緒に入れるという習慣があったようです。実際にホトトギスの声を交えることはできませんので、ホトトギスが鳴いているところで薬玉を作るという意味でしょう。

 

第10巻1940

朝霞 たなびく野辺に あしひきの 山霍公鳥 いつか来鳴かむ

 

あさかすみ たなびくのへに あしひきの やまほととぎす いつかきなかむ

意味:

朝霞の たなびく野原で 裾を長く引いた 山のホトトギス いつか来て鳴くでしょう

作者:

この歌の作者は不明です。景色が見えるようで、自然な素晴らしい歌です。

 

第10巻1942

霍公鳥 鳴く声聞くや 卯の花の 咲き散る岡に 葛引く娘女

 

ほととぎす なくこゑきくや うのはなの さきちるをかに くずひくをとめ

意味:

ホトトギスの 鳴く声が聞こえるよ 卯の花の 咲いて散る岡に 葛の蔓を引く若い女性

作者:

この歌の作者は不明です。葛の蔓からは、葛布が作られるという。

 

 

第10巻1943

月夜よみ 鳴く霍公鳥 見まく欲り 我れ草取れり 見む人もがも

 

つくよよみ なくほととぎす みまくほり われくさとれり みむひともがも

意味:

月夜を理解して 鳴くホトトギスを 見たいと思う 私は草を取っている 一緒に見るてくれる人が欲しい

作者:

この歌の作者は不明です。この歌も夜鳴くホトトギスを歌っています。

 

第10巻1944

藤波の 散らまく惜しみ 霍公鳥 今城の岡を 鳴きて越ゆなり

 

ふぢなみの ちらまくをしみ ほととぎす いまきのをかを なきてこゆなり

意味:

風に揺れる藤の花房が 散るのを惜しんで ホトトギスは 今城の岡を 鳴いて超えて行く

作者:

この歌の作者は不明です。今城の城の場所は不明です。

 

第10巻1945

朝霧の 八重山越えて 霍公鳥 卯の花辺から 鳴きて越え来ぬ

 

あさぎりの やへやまこえて ほととぎす うのはなへから なきてこえきぬ

意味:

朝霧の 八重山を越えて ホトトギスが 卯の花の辺りから 鳴いて越えてくる

作者:

この歌の作者は不明です。ホトトギスとお決まりの卯の花がセットになってます。

 

第10巻1946

木高くは かつて木植ゑじ 霍公鳥 来鳴き響めて 恋まさらしむ

 

こだかくは かつてきうゑじ ほととぎす きなきとよめて  ひまさらしむ

意味:

高い木は 決して木を植えないよ ホトトギスが 飛んで来て鳴き響かせて 恋の焦燥を募らせるので

作者:

この歌の作者は不明です。「かつて」は「決して」の意味で、「木植ゑじ」の「じ」は否定の意味です。

 

第10巻1947

逢ひかたき 君に逢へる夜 霍公鳥 他時よりは 今こそ鳴かめ

 

あひかたき きみにあへるよ ほととぎす ことときよりは いまこそなかめ

意味:

なかなか逢うことができない 君に逢える夜 ホトトギスよ 別の時でなく 今こそ鳴いておくれ

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1948

木の暗の 夕闇なるに [なれば] 霍公鳥 いづくを家と 鳴き渡るらむ

 

このくれの ゆふやみなるに[なれば] ほととぎす いづくをいへと なきわたるらむ

意味:

木が茂る場所で 夕闇になると ホトトギスは どこを家として 鳴き渡るのか

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1949

霍公鳥 今朝の朝明に 鳴きつるは 君聞きけむか 朝寐か寝けむ

 

ほととぎす けさのあさけに なきつるは きみききけむか あさいかねけむ

意味:

ホトトギスが 今日の朝はやく 鳴いたのを あなたは聞きましたか または、朝遅くまで寝ていましたか  

作者:

この歌の作者は不明です。

 

 

第10巻1950

霍公鳥 花橘の 枝に居て 鳴き響もせば 花は散りつつ

 

ほととぎす はなたちばなの えだにゐて なきとよもせば はなはちりつつ

意味:

ホトトギスが 橘の花の 枝に居て 鳴き騒げば 花は散ってしまうよ

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1951

うれたきや 醜霍公鳥 今こそば 声の嗄るがに 来鳴き響めめ

うれたきや しこほととぎす いまこそば こゑのかるがに きなきとよめめ

意味:

いまいましい 憎らしいホトトギスよ 今こそは 声がかれるまで 来て大声で騒げ

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1952

今夜の おほつかなきに 霍公鳥 鳴くなる声の 音の遥けさ

 

こよひの おほつかなきに ほととぎす なくなるこゑの おとのはるけさ

意味:

今夜の ぼんやりしている ホトトギス 鳴く声は 音が遠く隔たっています

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1953

五月山 卯の花月夜 霍公鳥 聞けども飽かず また鳴かぬかも

さつきやま うのはなづくよ ほととぎす きけどもあかず またなかぬかも

意味:

さつきの山に 卯の花が咲く月夜の今宵 ホトトギスの声を 聞いていると飽きない また鳴くかも知れないので

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1954

霍公鳥 来居も鳴かぬか 我がやどの 花橘の 地に落ちむ見む

 

ほととぎす きゐもなかぬか わがやどの はなたちばなの つちにおちむみむ

意味:

ホトトギスよ こちらに来て居ついて鳴かないか 私の家の 橘の花が 地に落ちてしまうのを見たよ

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1955

霍公鳥 いとふ時なし あやめぐさ かづらにせむ日 こゆ鳴き渡れ

 

ほととぎす いとふときなし あやめぐさ かづらにせむひ こゆなきわたれ

意味:

ホトトギスよ いたわる時がありませんが アヤメを 薬玉にするにする日(節句)には たくさん鳴いておくれ

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1956

大和には 鳴きてか来らむ 霍公鳥 汝が鳴く ごとになき人思ほゆ

 

やまとには なきてかくらむ ほととぎす ながなくごとに なきひとおもほゆ

意味:

大和には 鳴いた後で来てください ホトトギスよ あなたが鳴く度に 亡くなった人を思い出します

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1957

卯の花の 散らまく惜しみ 霍公鳥 野に出で山に入り 来鳴き響もす

 

うのはなの ちらまくをしみ ほととぎす のにいでやまにいり きなきとよもす

意味:

卯の花が 散ってしまったのを惜しみ ホトトギスは 野に出て山に入り 飛んで来て鳴き騒ぎます

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1958

橘の 林を植ゑむ 霍公鳥 常に冬まで 棲みわたるがね

 

たちばなの はやしをうゑむ ほととぎす つねにふゆまで すみわたるがね

意味:

橘の 林を植えて作ろう ホトトギスが 冬まで一年中 棲み続けられるように

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1959

雨晴れの 雲にたぐひて 霍公鳥 春日をさして こゆ鳴き渡る

 

あまばれの くもにたぐひて ほととぎす かすがをさして こゆなきわたる

意味:

雨が晴れて 雲と一緒に ホトトギスは 春日を目指して 越え鳴き渡ります

作者:

この歌の作者は不明です。春日という場所は、たくさんりますが、春日山などが考えられます。

 

第10巻1960

物思ふと 寐ねぬ朝明に 霍公鳥 鳴きてさ渡る すべなきまでに

 

ものもふと いねぬあさけに ほととぎす なきてさわたる すべなきまでに

意味:

物思いで 寝られぬ朝の明け方 ホトトギスが 鳴いて渡って行く どうしたらよいかわからないな

作者:

この歌の作者は不明です。どうしたらよいかわからないというのは、この物思いしていることがどうするべきかわからないということです。

 

第10巻1961

我が衣を 君に着せよと 霍公鳥 我れをうながす 袖に来居つつ

 

わがきぬを きみにきせよと ほととぎす われをうながす そでにきゐつつ

意味:

私の着物を 君に帰せよと ホトトギスが 私に促し 袖のところに来て居ます

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1962

本つ人 霍公鳥 をやめづらしく 今か汝が来る 恋ひつつ居れば

 

もとつひと ほととぎす をやめづらしく いまかながくる こひつつをれば

 

意味

お前は昔なじみの ホトトギスだ おや、一年ぶりで 今あなたが来る 恋しく思っていると 

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1963

かくばかり 雨の降らくに 霍公鳥 卯の花山に なほか鳴くらむ

 

かくばかり あめのふらくに ほととぎす うのはなやまに なほかなくらむ

意味:

これほどに 雨が降ってしまったのに ホトトギスが 卯の花山で なお鳴いているよ 

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1968

霍公鳥 来鳴き響もす 橘の 花散る庭を 見む人や誰れ

 

ほととぎす きなきとよもす たちばなの はなちるにはを みむひとやたれ

意味:

ホトトギスが 来て鳴いて声を響かせてる 橘の 花散る庭を 見る人は誰でしょうか

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1976

卯の花の 咲き散る岡ゆ 霍公鳥 鳴きてさ渡る 君は聞きつや 

 

うのはなの さきちるをかゆ ほととぎす なきてさわたる きみはききつや

意味:

卯の花の 咲いて散る岡の ホトトギスは 鳴いて渡って行く 君は聞いただろうか

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1977

聞きつやと 君が問はせる 霍公鳥 しののに濡れて こゆ鳴き渡る

 

ききつやと きみがとはせる ほととぎす しののにぬれて こゆなきわたる

意味:

聞いたかと あなたが問われる ホトトギスは ぐっしょりと濡れて 大きな声で鳴きながら飛んで行きます 

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1978

橘の 花散る里に 通ひなば 山霍公鳥 響もさむかも

 

たちばなの はなちるさとに かよひなば やまほととぎす とよもさむかも

意味:

橘の 花の散る里に 通へば 山ホトトギスの 鳴き声が辺りに響き渡るでしょう

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1979

春されば すがるなす野の 霍公鳥 ほとほと妹に 逢はず来にけり

 

はるされば すがるなすのの ほととぎす ほとほといもに あはずきにけり

意味:

春になり 似我(ジガ)蜂が発生した野のような ホトトギズを見て すんでのところで恋人に 逢わずに来てしまったよ

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第10巻1980

五月山 花橘に 霍公鳥 隠らふ時に 逢へる君かも

 

さつきやま はなたちばなに ほととぎす こもらふときに あへるきみかも

意味:

さつき山の 花橘に ホトトギスが 繰り返し隠れるときに 逢える君かもしれません

作者:

この歌の作者は不明です。

第10巻1981

霍公鳥 来鳴く五月の 短夜も ひとりし寝れば 明かしかねつも

 

ほととぎす きなくさつきの みじかよも ひとりしぬれば あかしかねつも

意味:

ホトトギスが 飛んで来て鳴く五月の 短い夜も 一人で寝るので なかなか夜が明けないことよ

作者:

この歌の作者は不明です

 

第10巻1991

霍公鳥 来鳴き響もす 岡辺なる 藤波見には 君は来じとや

 

ほととぎす きなきとよもす をかへなる ふぢなみみには きみはこじとや

意味:

ホトトギスが 飛んで来て鳴いて声を響かせる 岡の近くにある 藤の花見には 君は来ないというのか

作者:

この歌の作者は不明です。

 

第12巻3165

霍公鳥 飛幡の浦に しく波の しくしく君を 見むよしもがも

 

ほととぎす とばたのうらに しくなみの しくしくきみを みむよしもがも

意味:

ホトトギスのいる 飛幡の浦に 繰り返し起こる波のように あとからあとから君を 見る術が欲しいものです

作者:

この歌の作者は不明です。飛幡(とばた)は北九州市の戸畑区付近に古くからある地名です。

第14巻3352

信濃なる 須我の荒野に 霍公鳥 鳴く声聞けば 時過ぎにけり

 

しなぬなる すがのあらのに ほととぎす なくこゑきけば ときすぎにけり

意味:

信濃の 須我の荒野にいる ホトトギスの 鳴く声を聞けば 時が過ぎました

作者:

この歌の作者は不明です。須我は信濃にあると思われるが具体的場所は不明です。須我は菅平などの説もありますが他の説もあります。菅平は、荒野や古代人が住んでいた遺跡の存在など可能性はあると考えます。時は、ホトトギスが鳴くことで、待っていた時が過ぎたという意味です。この歌が、東歌という部分にあり、東国方言で歌われていることを考えれば、信濃生れの人が読んだと考えるのが普通ですので、ある人が信濃に帰る時を待っていたなどと考えられます。

 

第15巻3754

過所なしに 関飛び越ゆる 霍公鳥 多我子尓毛 止まず通はむ

 

くゎそなしに せきとびこゆる ほととぎす ******* やまずかよはむ

意味:

関所の通行許可証なしに 関所を飛び越える ホトトギスのように(おおらかに我は子にも) やめずに通います

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)奈良時代の貴族で従五位下。藤原仲麻呂の乱に連座して除名。万葉集中には40首の歌があるが、すべて狭野弟上娘子(さののちがみの おとめ)に対する贈答歌。中臣宅守は狭野弟上娘子と結婚するが、中臣宅守は後に越前国に配流される。

第15巻3780

恋ひ死なば 恋ひも死ねとや 霍公鳥 物思ふ時に 来鳴き響むる

 

こひしなば こひもしねとや ほととぎす ものもふときに きなきとよむる

意味:

恋て死んだならば 恋も死ねと ホトトギス 物思う時に 来て鳴き声を響かせる  

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。

 

第15巻3781

旅にして 物思ふ時に 霍公鳥 もとなな鳴きそ 我が恋まさる

 

たびにして ものもふときに ほととぎす もとなななきそ あがこひまさる

意味:

旅に出て 物を思うとき ホトトギスが しきりに鳴いたので 私の恋は増すばかりだ 

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。

第15巻3782

雨隠り 物思ふ時に 霍公鳥 我が住む里に 来鳴き響もす

 

あまごもり ものもふときに ほととぎす わがすむさとに きなきとよもす

意味:

雨が降って家に籠って 物を思う時に ホトトギスは 私が住む里に 来て鳴き響かせます

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。

 

第15巻3783

旅にして 妹に恋ふれば 霍公鳥 我が住む里に こよ鳴き渡る

 

たびにして いもにこふれば ほととぎす わがすむさとに こよなきわたる

意味:

旅の中で 恋人を恋うれば ホトトギスが 私が住む里に 目の前を通って鳴き渡ります

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。類似の歌が続きます。

 

第15巻3784

心なき 鳥にぞありける 霍公鳥 物思ふ時に 鳴くべきものか

 

こころなき とりにぞありける ほととぎす ものもふときに なくべきものか

意味:

感情の乏しい 鳥であるが ホトトギスは 物思うときに 鳴くのが当然なのか

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。

 

第15巻3785

霍公鳥 間しまし置け 汝が鳴けば 我が思ふ心 いたもすべなし 

 

ほととぎす あひだしましおけ ながなけば あがもふこころ いたもすべなし

意味:

ホトトギスよ 鳴く間をしばし置いておくれ お前が鳴けば 私が恋しく思う心を どうしたらよいかわからない

作者:

中臣宅守(なかとみのやかもり)この歌も前の歌と同様で狭野弟上娘子に対する贈答歌です。

 

第17巻3909

橘は 常花にもが 霍公鳥 住むと来鳴かば 聞かぬ日なけむ

 

たちばなは とこはなにもが ほととぎす すむときなかば きかぬひなけむ

意味:

橘の花に 常に花が咲いて ホトトギスが 住む所に飛んで来て鳴けば 声を聞かない日はなくなるだろう

作者:

大伴書持(おおとものふみもち)大伴旅人の子で大伴家持の弟

第17巻3910

玉に貫く 楝を家に 植ゑたらば 山霍公鳥 離れず来むかも

 

たまにぬく あふちをいへに うゑたらば やまほととぎす かれずこむかも

意味:

節句の薬玉を作るための センダンを家に 植えたならば 山ホトトギスが 離れずに来るかも

作者:

大伴書持(おおとものふみもち)5月の節句には、センダンの実と香り袋を五色の糸で貫き装飾品として、スダレや柱に飾ったという。これを作るときホトトギスの鳴き声が必要だったという。この薬玉を作る行事については、万葉集で繰り返し歌われている。

センダン

 

センダンの実(秋になり葉が落ちても実だけが残ります)

第17巻3911

あしひきの 山辺に居れば 霍公鳥 木の間立ち潜き 鳴かぬ日はなし

あしひきの やまへにをれば ほととぎす このまたちくき なかぬひはなし

意味:

山すそを長く引く 山辺に居れば ホトトギスは 木の間に立ったり隠れたりで 鳴かない日はない

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは橙色の橘が初めて咲き、ホトトギスはひらひらと飛んで鳴く、この春から夏にかけて特に感じやすく、3首の歌を作って、これによって鬱血した心を散らすのみとなっている。3首の歌とは、3911、3912、3913です。

 

第17巻3912

霍公鳥 何の心ぞ 橘の 玉貫く月し 来鳴き響むる

 

ほととぎす なにのこころぞ たちばなの たまぬくつきし きなきとよむる

意味:

ホトトギスは どんな気持ちなのか 節句の薬玉を作る月に 来て鳴き声を響かせるのは

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは橙色の橘が初めて咲き、ホトトギスはひらひらと飛んで鳴く、この春から夏にかけて特に感じやすく、3首の歌を作って、これによって鬱血した心を散らすのみとなっている。3首の歌とは、3911、3912、3913です。

 

第17巻3913

霍公鳥 楝の枝に 行きて居ば 花は散らむな 玉と見るまで

 

ほととぎす あふちのえだに ゆきてゐば はなはちらむな たまとみるまで

意味:

ホトトギスよ センダンの枝にいて 花を散らすな センダンに玉の実が付くまで

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは橙色の橘が初めて咲き、ホトトギスはひらひらと飛んで鳴く、この春から夏にかけて特に感じやすく、3首の歌を作って、これによって鬱血した心を散らすのみとなっている。3首の歌とは、3911、3912、3913です。

第17巻3914

霍公鳥 今し来鳴かば 万代に 語り継ぐべく 思ほゆるかも 

 

ほととぎす いましきなかば よろづよに かたりつぐべく おもほゆるかも

意味:

ホトトギスが ちょうど今来て鳴けば 永遠に 語り継ぐべきだと 感じられかも知れません 

作者:

田口朝臣馬長(たぐちのあそみうまをさ)この人については伝未詳です。タイトルはホトトギスを思う歌となっています。

 

第17巻3916

橘の にほへる香かも 霍公鳥 鳴く夜の雨に うつろひぬらむ

 

たちばなの にほへるかかも ほととぎす なくよのあめに うつろひぬらむ

意味:

橘の 匂う香りかも知れません ホトトギスの 鳴く夜の雨に 次第に消えてゆくのは

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは十六年四月五日に一人住まいの平城の故宅で作る歌となっています。

第17巻3917

霍公鳥 夜声なつかし 網ささば 花は過ぐとも 離れずか鳴かむ

 

ほととぎす よごゑなつかし あみささば はなはすぐとも かれずかなかむ

意味:

ホトトギスの 夜の鳴き声が懐かしい 網で生け捕りにすると 花の季節が終わっても ここから離れず鳴き続けるでしょう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは十六年四月五日に一人住まいの平城の故宅で作る歌となっています。

 

第17巻3918

橘の にほへる園に 霍公鳥 鳴くと人告ぐ 網ささましを

たちばなの にほへるそのに ほととぎす なくとひとつぐ あみささましを

意味:

橘の 匂いのする庭園に ホトトギスが 鳴いていると人が告げて来た 生け捕りにする網を仕掛けましょう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは十六年四月五日に一人住まいの平城の旧宅で作る歌となっています。

第17巻3919

あをによし 奈良の都は 古りぬれど もと霍公鳥 鳴かずあらなくに

 

あをによし ならのみやこは ふりぬれど もとほととぎす なかずあらなくに

意味:

青丹が素晴らしい 奈良の都は 古くなってしまったが 以前からのホトトギスは 鳴かないことはありませんよ   

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは十六年四月五日に一人住まいの平城の旧宅で作る歌となっています。

第17巻3946

霍公鳥 鳴きて過ぎにし 岡びから 秋風吹きぬ よしもあらなくに 

 

ほととぎす なきてすぎにし をかびから あきかぜふきぬ よしもあらなくに

意味:

ホトトギスが 鳴いて過ぎ去った 岡の辺りから 秋風が吹き 妻の着物を重ね着する手立があるわけではないのに 

作者: 大伴宿禰池主(おおとものすくねいけぬし)この歌の最後の「よしもあらなくに」はこの前の歌3945で次のような歌の内容が

かかっている。

 

3945 秋の夜は 暁寒し 白栲の 妹が衣手 着むよしもがも

秋の夜は 明け方が寒いので 白い布の 妻の着物を 着る手段があったらいのに

 

第17巻3978

   妹も我れも 心は同じ             いももあれも こころはおやじ
   たぐへれど いやなつかしく          たぐへれど いやなつかしく
   相見れば 常初花に              あひみれば とこはつはなに
   心ぐし めぐしもなしに            こころぐし めぐしもなしに
   はしけやし 我が奥妻             はしけやし あがおくづま
   大君の 命畏み                おほきみの みことかしこみ
   あしひきの 山越え野行き          あしひきの やまこえぬゆき
   天離る 鄙治めにと              あまざかる ひなをさめにと
   別れ来し その日の極み            わかれこし そのひのきはみ
10  あらたまの 年行き返り            あらたまの としゆきがへり
11  春花の うつろふまでに            はるはなの うつろふまでに
12  相見ねば いたもすべなみ           あひみねば いたもすべなみ
13  敷栲の 袖返しつつ              しきたへの そでかへしつつ
14  寝る夜おちず 夢には見れど          ぬるよおちず いめにはみれど
15  うつつにし 直にあらねば           うつつにし ただにあらねば
16  恋しけく 千重に積もりぬ           こひしけく ちへにつもりぬ
17  近くあらば 帰りにだにも           ちかくあらば かへりにだにも
18  うち行きて 妹が手枕             うちゆきて いもがたまくら
19  さし交へて 寝ても来ましを          さしかへて ねてもこましを
20  玉桙の 道はし遠く              たまほこの みちはしとほく
21  関さへに へなりてあれこそ          せきさへに へなりてあれこそ
22  よしゑやし よしはあらむぞ          よしゑやし よしはあらむぞ
23  霍公鳥 来鳴かむ月に             ほととぎす きなかむつきに
24  いつしかも 早くなりなむ           いつしかも はやくなりなむ
25  卯の花の にほへる山を            うのはなの にほへるやまを
26  よそのみも 振り放け見つつ          よそのみも ふりさけみつつ
27  近江道に い行き乗り立ち           あふみぢに いゆきのりたち
28  あをによし 奈良の我家に           あをによし ならのわぎへに
29  ぬえ鳥の うら泣けしつつ           ぬえどりの うらなけしつつ
30  下恋に 思ひうらぶれ             したごひに おもひうらぶれ
31  門に立ち 夕占問ひつつ            かどにたち ゆふけとひつつ
32  我を待つと 寝すらむ妹を 逢ひてはや見む   わをまつと なすらむいもを あひてはやみむ

意味:

   妻も私も 心は同じ
   寄り添っていても やあ、心が引かれ
   顔を見合わせれば いつも初めて咲いた花のように美しく
   せつない苦しさ いたわしさもなしに
   ああ、いとおしい 我が心から愛する妻
   天皇の 仰せを敬って慎み
   麓を長く引く 山越え野を行き
   天遠く離れている 地方を治めるために
   別れて来る その日が極まるとき
10  めでたく 新年を迎えて
11  春の花の 光や影が映るまでに
12  顔を見合わせないので 全く方法がない
13  寝所に敷く布の 袖を返しつつ
14  毎夜いつも 夢には見るけれど
15  現実として 直接でなければ
16  恋しいこと 千重に積もる
17  近くにいるのであれば 帰りにだけでも
18  ちょっと行きて 妻と手枕で
19  寄り添って 寝ても来るものを
20  行く手の 道は遠く
21  関所までは 離れているけれども
22  それならそれで 手だてはあるのだ
23  ホトトギスが 来て鳴く月に
24  今すぐに 早くならないものか
25  卯の花の 香る山を
26  よそ目に ふり仰いで見ながら
27  近江道の 定められた道を行き
28  青丹を産する 奈良の我家に
29  トラツグミのように 心の中で泣きながら
30  ひそかに恋しく思い 悲しみに沈む
31  門に立って 夕方、道ばたに立って道行く人の言葉を聞いて吉凶を占う
32  私を待って 寝ているであろう妻に 逢って早く見たい

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌には、「3月5日に、大伴宿禰家持病に臥して作る。恋諸を述べる歌」となっています。恋諸とは、都の妻 大嬢への思いです。

 

第17巻3983

あしひきの 山も近きを 霍公鳥 月立つまでに 何か来鳴かぬ

 

あしひきの やまもちかきを ほととぎす つきたつまでに なにかきなかぬ

意味:

山すそを長く引く 山の近いところを ホトトギスが 立夏を過ぎるまでに どうして来て鳴かないのか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、次のようになっています。「立夏4月すでに何日も経ているが、それでもやはりホトトギスの鳴くのを聞かない。よって作る恨みの歌」

 

第17巻3988

ぬばたまの 月に向ひて 霍公鳥 鳴く音遥けし 里遠みかも

 

ぬばたまの つきにむかひて ほととぎす なくおとはるけし さとどほみかも

意味:

夜の 月に向かって鳴く ホトトギスの 鳴声が遥かだ まだ里か遠いのかもしれません

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「4月16日の夜の内に遥かにホトトギスの鳴くを聞いて思いを述べる歌一首」となっています。

 

第17巻3993

(この歌は3.4章でも取り上げられました)


1   藤波は 咲きて散りにき             
ふぢなみは さきてちりにき
2   卯の花は 今ぞ盛りと              
うのはなは いまぞさかりと
3   あしひきの 山にも野にも            
あしひきの やまにものにも
4   霍公鳥 鳴きし響めば              
ほととぎす なきしとよめば
5   うち靡く 心もしのに              
うちなびく こころもしのに
6   そこをしも うら恋しみと            
そこをしも うらごひしみと
7   思ふどち 馬打ち群れて             
おもふどち うまうちむれて
8   携はり 出で立ち見れば             
たづさはり いでたちみれば
9   射水川 港の渚鳥                
いみづがは みなとのすどり
10  朝なぎに 潟にあさりし             
あさなぎに かたにあさりし
11  潮満てば 夫呼び交す              
しほみてば つまよびかはす
12  羨しきに 見つつ過ぎ行き            
ともしきに みつつすぎゆき
13  渋谿の 荒礒の崎に               
しぶたにの ありそのさきに
14  沖つ波 寄せ来る玉藻              
おきつなみ よせくるたまも
15  片縒りに 蘰に作り               
かたよりに かづらにつくり
16  妹がため 手に巻き持ちて            
いもがため てにまきもちて
17  うらぐはし 布勢の水海に            
うらぐはし ふせのみづうみに
18  海人船に ま楫掻い貫き             
あまぶねに まかぢかいぬき
19  白栲の 袖振り返                
しろたへの そでふりかへし
20  あどもひて 我が漕ぎ行けば           
あどもひて わがこぎゆけば
21  乎布の崎 花散りまがひ             
をふのさき はなちりまがひ
22  渚には 葦鴨騒き                
なぎさには あしがもさわき
23  さざれ波 立ちても居ても            
さざれなみ たちてもゐても
24  漕ぎ廻り 見れども飽かず            
こぎめぐり みれどもあかず
25  秋さらば 黄葉の時に              
あきさらば もみちのときに
26  春さらば 花の盛りに              
はるさらば はなのさかりに
27  かもかくも 君がまにまと            
かもかくも きみがまにまと
28  かくしこそ 見も明らめめ 絶ゆる日あらめや   
かくしてこそ みもあきらめめ たゆるひあらめや

意味:

1      風で波のように揺れる藤の花は 咲いて散ってしまった
2      卯の花は 今が盛りだ 
3      裾野を長く引く 山にも野にも
4      ホトトギスの 鳴く声が響けば
5      草が風になびいて 心もうちひしがれて 
6      そのことが 心恋しいと
7      気の合う友達と 一緒に馬に乗って
8      連れ立って 出かけて見れば
9      射水川の 河口の洲にいる鳥は
10     朝なぎには 干潟で餌を取り 
11     潮が満ちてくると 相手を呼び交わす
12     美しさに心ひかれつつ それを見ながら過ぎて行く
13     渋谿の  荒礒の崎では  
14     沖の波で 寄せて来る美しい海藻 
15     片方の糸だけにひねりをかけて 髪飾りをつくり
16     妻のために 手に巻いて持って 
17     心も神妙になるような 布勢の湖に
18     海人の船に 左右そろった櫂 (かい) をたくさん取り付けて
19     真っ白な 袖を振り返し
20     みんなでかけ声をかけて 漕いで行くと
21     乎布の崎には 花が散り乱れ
22     渚には 葦鴨が騒き  
23     細かく何度も 立ったり座ったりしながら
24     漕ぎ巡り いくら見ても見飽きることもなく
25     秋になれば 紅葉の時に
26     春になれば 花の盛りに
27     どんな時でも 君のお伴として
28     このようにして 景色を見て心を晴らそう この楽しみが絶える日などないでしょう

作者:

大伴宿禰池主(おおとものすくねいけぬし)、奈良時代の歌人、官人、天平10年(738年)従七位下、大伴家持との関係が深かったと思われる。この歌には、敬みて布勢の水海に遊覧する腑に和ふる一首(布勢の湖を遊覧させて頂いたことに応える一首)というタイトルが付いている。布勢の湖とは、富山県氷見市氷見駅の南西4Kmほどのところにあった湖だという。大伴家持は、746年かた751年まで越中の国守として氷見市の隣の高岡市に住んで、布勢水海を愛し友達と舟遊びをしていたという。

第17巻3996

我が背子が 国へましなば 霍公鳥 鳴かむ五月は 寂しけむかも

 

わがせこが くにへましなば ほととぎす なかむさつきは さぶしけむかも

意味:

あなたが 国(奈良)へ行ってしまったら ホトトギスが 鳴く5月は 寂しいものになるかも知れません

作者:

介(すけ)内蔵忌寸縄麻呂(くらのいみきなわまろ)介は地方官の次官のことです。この歌は、大伴家持に対して読んだ歌でよってこの歌の冒頭の背子は、上司の意味の主人を表しています。

 

第17巻3997

我れなしと なわび我が背子 霍公鳥 鳴かむ五月は 玉を貫かさね

 

あれなしと なわびわがせこ ほととぎす なかむさつきは たまをぬかさね

意味:

私がいなくても 寂しく思わないでください兄弟よ ホトトギスが 鳴く5月は 薬玉を作りなさい

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、3996の歌を受けて大伴家持が返したものです。この歌では、部下に対

して背子と歌っているが、親しみを込めるための兄弟と翻訳しました。

 

第17巻4007

我が背子は 玉にもがもな 霍公鳥 声にあへ貫き 手に巻きて行かむ

 

わがせこは たまにもがもな ほととぎす こゑにあへぬき てにまきてゆかむ

意味:

私の兄弟は 玉であって欲しい ホトトギスの 声に混ぜ合わせて 手に巻き貫いて行こう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、大伴宿禰家持の送別会で、大伴家持が大伴池主に贈った長歌に付けた反歌(長歌)の要約です。意味は翻訳しただけでは分かり難いが、大伴池主が素晴らしいのでホトトギスの声と一緒に連れて行きたいと歌っています。大伴池主がとても気に入られていたようです。

 

第17巻4008

1   あをによし 奈良を来離れ          あをによし ならをきはなれ
2   天離る 鄙にはあれど            あまざかる ひなにはあれど
3   我が背子を 見つつし居れば         わがせこを みつつしをれば
4   思ひ遣る こともありしを          おもひやる こともありしを
5   大君の 命畏み               おほきみの みことかしこみ
6   食す国の 事取り持ちて           をすくにの こととりもちて
7   若草の 足結ひ手作り            わかくさの あゆひたづくり
8   群鳥の 朝立ち去なば            むらとりの あさだちいなば
9   後れたる 我れや悲しき           おくれたる あれやかなしき
10  旅に行く 君かも恋ひむ           たびにゆく きみかもこひむ
11  思ふそら 安くあらねば           おもふそら やすくあらねば
12  嘆かくを 留めもかねて           なげかくを とどめもかねて
13  見わたせば 卯の花山の           みわたせば うのはなやまの
14  霍公鳥 音のみし泣かゆ           ほととぎす ねのみしなかゆ
15  朝霧の 乱るる心              あさぎりの みだるるこころ
16  言に出でて 言はばゆゆしみ         ことにいでて いはばゆゆしみ
17  砺波山 手向けの神に            となみやま たむけのかみに
18  幣奉り 我が祈ひ祷まく           ぬさまつり あがこひのまく
19  はしけやし 君が直香を           はしけやし きみがただかを
20  ま幸くも ありた廻り            まさきくも ありたもとほり
21  月立たば 時もかはさず           つきたたば ときもかはさず
22  なでしこが 花の盛りに 相見しめとぞ    なでしこが はなのさかりに あひみしめとぞ

意味:

1   青丹を産した 奈良を後にして
2   天から遠く離れている 田舎ではあるが
3   私の主人に お会いしていれば>
4   気を晴らす こともあったが
5   天皇の 仰せを謹んでお受けし
6   天皇のお治めになる国なので(国の政を執り行って)
7   若々しい 裾を結ぶ紐を手作りし 
8   鳥が群がる 朝立ち去ったので
9   後に残された 私は悲しい
10  旅に出る 君かもしれません心が引かれるのは
11  思う心が 不安なので
12  嘆くことを 留めることもできず
13  見渡せば 卯の花の山の
14  ホトトギスは 声音をあげて泣いている
15  朝霧のように 乱れる心
16  口に出して 言えば恐れ多い
17  砺波山の 供え物をする神に
18  幣を献上し 私の思いを祈願する
19  愛しい あなたが
20  無事に あちらこちらを礼拝し
21  新しい月が来れば 直ぐに
22  撫子の 花の盛りに お会いしましょう

作者:

大伴宿禰池主(おおとものすくねいけぬし)大伴池主が4006,4007の歌に対して、大伴池主が返事として歌ったものです。

 

第17巻4035

霍公鳥 いとふ時なし あやめぐさ かづらにせむ日 こゆ鳴き渡れ

 

ほととぎす いとふときなし あやめぐさ かづらにせむひ こゆなきわたれ

意味:

ホトトギスよ 嫌がっている暇がありません アヤメを 蔓にする日には 大声で鳴き渡りなさい

作者:

田辺福麻呂(たなべのさきまろ)この歌のタイトルは「天平20年春3月23日左大臣橘家の使者、造酒司 令史 田辺福麻呂が大伴宿祢家持の舘の宴で新しい歌を作って、さらに古い歌を歌っておのおのの思いを述べた」とある。

 

第17巻4042

藤波の 咲き行く見れば 霍公鳥 鳴くべき時に 近づきにけり

 

ふぢなみの さきゆくみれば ほととぎす なくべきときに ちかづきにけり

意味:

藤の花が 咲き行くのを見れば ホトトギスが 鳴くべき時期が 近づいているのがわかるよ

作者:

田辺福麻呂(たなべのさきまろ)藤波は、藤の花が波のように揺れる様を表現する言葉です。

 

第18巻4043

明日の日の 布勢の浦廻の 藤波に けだし来鳴かず 散らしてむかも[霍公鳥]

    

あすのひの ふせのうらみの ふぢなみに けだしきなかず ちらしてむかも [ほととぎす]

意味:

明日の 布勢の浦の廻りの 揺れる藤の花に ひょとすると来て鳴かないまま 散らしてしまうことにならないか [ホトトギスよ]

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)布勢の海(布勢の浦)は、現在の富山県氷見市の十二町潟の近く、大伴家持は、この近くに赴任していて、良くここで遊んだ。 [霍公鳥]は1句目を置き替えるものです。

 

第18巻4050

めづらしき 君が来まさば 鳴けと言ひし 山霍公鳥 何か来鳴かぬ

 

めづらしき きみがきまさば なけといひし やまほととぎす なにかきなかぬ

意味:

珍しい 人が来たら 鳴けと言っておいたが 山ホトトギスは 何故来て鳴かないのか

作者:

久米広縄(くめの ひろただ/ひろつな)万葉集では9首の歌が記載されている。現在の富山県の地点の歌が多く、大伴家持との関係が深かったと思われる。

 

第18巻4051

多古の崎 木の暗茂に 霍公鳥 来鳴き響めば はだ恋ひめやも

 

たこのさき このくれしげに ほととぎす きなきとよめば はだこひめやも

意味:

多古の埼の 木が暗く茂った場所に ホトトギスが 来て鳴き声を響かせてくれれば こんなにも恋ているだろうか 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4052

霍公鳥 今鳴かずして 明日越えむ 山に鳴くとも 験あらめやも

 

ほととぎす いまなかずして あすこえむ やまになくとも しるしあらめやも

意味:

ホトトギスよ 今鳴かないで 明日越えて行く 山で鳴いても 何の霊験があるだろうか、そんなことはないなあ

作者:

田辺福麻呂(たなべ の さきまろ) 田辺福麻呂の歌は、万葉集に44首ある。これらの歌は田辺福麻呂歌集に記載されているものが多い。

 

第18巻4053

木の暗に なりぬるものを 霍公鳥 何か来鳴かぬ 君に逢へる時

このくれに なりぬるものを ほととぎす なにかきなかぬ きみにあへるとき

意味:

木の下が暗く なってしまったというのに ホトトギスよ なぜ来て鳴かないか 貴方と会える時に

作者:

久米広縄(くめの ひろただ/ ひろつな)4050と同じ

 

第18巻4054

霍公鳥 こよ鳴き渡れ 燈火を 月夜になそへ その影も見む

 

ほととぎす こよなきわたれ ともしびを つくよになそへ そのかげもみむ

意味:

ホトトギスよ ここを通って鳴き渡りなさい 燈火を 月夜に見立てて その影を見ましょう

作者:
大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち) この歌は少し分かり難い歌ですが、宴会の場所に燈火がありますので、この燈火を月に見立てて鳴き渡りなさい、そうすれば燈火の影としてホトトギスが見えると歌っています。空想です。

第18巻4066

卯の花の 咲く月立ちぬ 霍公鳥 来鳴き響めよ 含みたりとも

うのはなの さくつきたちぬ ほととぎす きなきとよめよ ふふみたりとも

意味:

卯の花の 咲く月になりました ホトトギスよ 来て鳴いて声を響かせなさい 花が蕾の状態でも

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)月立ちの意味は、次の月となることです。月立ちはついたち(1日)につながります。

 

第18巻4067

二上の 山に隠れる 霍公鳥 今も鳴かぬか 君に聞かせむ

 

ふたがみの やまにこもれる ほととぎす いまもなかぬか きみにきかせむ

意味:

二上山に 隠れる ホトトギスは 今も鳴かないか 君に聞かせたい

作者:

遊行女婦(うかれめ)土師(はにし) 埴輪などを作っていた遊女と思われるが詳細不明。万葉集中に2つの歌がある。

 

第18巻4068

居り明かしも 今夜は飲まむ 霍公鳥 明けむ朝は 鳴き渡らむぞ

 

をりあかしも こよひはのまむ ほととぎす あけむあしたは なきわたらむぞ

意味:

このままじっと夜明かししてでも 今夜は飲もう ホトトギスは 明日の朝は 鳴き渡るでしょう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4069

明日よりは 継ぎて聞こえむ 霍公鳥 一夜のからに 恋ひわたるかも

 

あすよりは つぎてきこえむ ほととぎす ひとよのからに こひわたるかも

意味:

明日からは 連続して聞こえる ホトトギスの鳴き声 この一晩が原因で 恋い慕い続けるかも知れません

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)4067、4068が原因で、大伴宿禰家持が土師を恋い続けるようになるかも知れませんという歌です。

 

第18巻4084

暁に 名告り鳴くなる 霍公鳥 いやめづらしく 思ほゆるかも

 

あかときに なのりなくなる ほととぎす いやめづらしく おもほゆるかも

意味:

明け方に 自分の名前を告げてから鳴く ホトトギスがいる とても珍しく 感じられますね

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4089

1   高御座 天の日継と          たかみくら あまのひつぎと
2   すめろきの 神の命の         すめろきの かみのみことの
3   聞こしをす 国のまほらに       きこしをす くにのまほらに
4   山をしも さはに多みと        やまをしも さはにおほみと
5   百鳥の 来居て鳴く声         ももとりの きゐてなくこゑ
6   春されば 聞きのかなしも       はるされば ききのかなしも
7   いづれをか 別きて偲はむ       いづれをか わきてしのはむ
8   卯の花の 咲く月立てば        うのはなの さくつきたてば
9   めづらしく 鳴く霍公鳥        めづらしく なくほととぎす
10  あやめぐさ 玉貫くまでに       あやめぐさ たまぬくまでに
11   昼暮らし 夜わたし聞けど       ひるくらし よわたしきけど
12   聞くごとに 心つごきて        きくごとに こころつごきて
13   うち嘆き あはれの鳥と 言はぬ時なし うちなげき あはれのとりと いはぬときなし

 

意味:

1   天皇の座所 神代から受け継がれて来た皇位の継承と
2   天皇の 神様の
3   お治めあそばす 国の素晴らしい場所に
4   山が 非常に多く見える
5   多くの鳥が 来て鳴く声
6   春になって 聞くにつけひとしお心にしみる
7   どの鳥の声を 特別良いとほめるわけにはいかない
8   卯の花が 咲く月になれば
9   賞美すべき 鳴くホトトギス
10  節句に菖蒲を 玉に貫くまで
11  日が暮れるまで また夜通し聞けるけど
12  聞くごとに 心が激しく動いて
13  深い溜息をついて しみじみと感慨深く思う鳥と 言はない時はない

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌には、「一人とばりの裏に居て、遥かにホトトギスの鳴くを聞いて作る歌」というタイトルがついている。

 

第18巻4090

ゆくへなく ありわたるとも 霍公鳥 鳴きし渡らば かくや偲はむ

 

ゆくへなく ありわたるとも ほととぎす なきしわたらば かくやしのはむ

意味:

あてもなく 日を送るようなことがあっても ホトトギスが 鳴きながら渡れば こんなに偲ばれる(節句が)

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4091

卯の花の ともにし鳴けば 霍公鳥 いやめづらしも 名告り鳴くなへ

 

うのはなの ともにしなけば ほととぎす いやめづらしも なのりなくなへ

意味:

卯の花と 一緒に鳴けば ホトトギスが いや素晴らしいですね 名前を言って鳴きなさいな

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第18巻4092

霍公鳥 いとねたけくは 橘の 花散る時に 来鳴き響むる

 

ほととぎす いとねたけくは たちばなの はなぢるときに きなきとよむる

意味:

ホトトギスが まことに小憎らしてならぬのは 橘の 花が散った後で 来て鳴き騒ぐこと

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)橘の花を見るときに同時にホトトギスが鳴いて欲しいと歌っています。

 

第18巻4101

1   珠洲の海人の 沖つ御神に         すすのあまの おきつみかみに
2   い渡りて 潜き取るといふ         いわたりて かづきとるといふ
3   鰒玉 五百箇もがも            あはびたま いほちもがも
4   はしきよし 妻の命の           はしきよし つまのみことの
5   衣手の 別れし時よ            ころもでの わかれしときよ
6   ぬばたまの 夜床片さり          ぬばたまの よとこかたさり
7   朝寝髪 掻きも梳らず           あさねがみ かきもけづらず
8   出でて来し 月日数みつつ         いでてこし つきひよみつつ
9   嘆くらむ 心なぐさに           なげくらむ こころなぐさに
10  霍公鳥 来鳴く五月の           ほととぎす きなくさつきの
11  あやめぐさ 花橘に            あやめぐさ はなたちばなに
12  貫き交へ かづらにせよと 包みて遣らむ  ぬきまじへ かづらにせよと つつみてやらむ

意味:

1   珠洲(能登半島最先端)の海人(あま)は 沖つ御神(能登北50kmの舳倉島を見立てる)に
2   渡って 海中に潜って取るという
3   鰒玉(あわびだま、真珠のこと) 五百箇もあったらいいな
4   ああなつかしい 妻のみことよ
5   たもとを分けた 別れし時より
6   真っ暗な 夜の床で片側に寄り
7   朝の乱れたままの髪に 櫛も通さないで
8   現れて来て 月日数えながら
9   嘆いているだろう 心のなぐさめに
10  ホトトギスが 来て鳴く五月の
11  菖蒲草と 花橘を
12  貫き交へて 髪飾りにせよと 包んで贈ろう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「京の家に贈るために、真珠を願う歌」となっています。

 

第18巻4111
1   かけまくも あやに畏し          かけまくも あやにかしこし
2   天皇の 神の大御代に           すめろきの かみのおほみよに
3   田道間守 常世に渡り           たぢまもり とこよにわたり
4   八桙持ち 参ゐ出来し時          やほこもち まゐでこしとき
5   時じくの かくの木の実を         ときじくの かくのこのみを
6   畏くも 残したまへれ           かしこくも のこしたまへれ
7   国も狭に 生ひ立ち栄え          くにもせに おひたちさかえ
8   春されば 孫枝萌いつつ          はるされば ひこえもいつつ
9   霍公鳥 鳴く五月には           ほととぎす なくさつきには
10  初花を 枝に手折りて           はつはなを えだにたをりて
11  娘子らに つとにも遣りみ         をとめらに つとにもやりみ
12  白栲の 袖にも扱入れ           しろたへの そでにもこきれ
13  かぐはしみ 置きて枯らしみ        かぐはしみ おきてからしみ
14  あゆる実は 玉に貫きつつ         あゆるみは たまにぬきつつ
15  手に巻きて 見れども飽かず        てにまきて みれどもあかず
16  秋づけば しぐれの雨降り         あきづけば しぐれのあめふり
17  あしひきの 山の木末は          あしひきの やまのこぬれは
18  紅に にほひ散れども           くれなゐに にほひちれども
19  橘の なれるその実は           たちばなの なれるそのみは
20  ひた照りに いや見が欲しく        ひたてりに いやみがほしく
21  み雪降る 冬に至れば           みゆきふる ふゆにいたれば
22  霜置けども その葉も枯れず        しもおけども そのはもかれず
23  常磐なす いやさかはえに         ときはなす いやさかはえに
24  しかれこそ 神の御代より         しかれこそ かみのみよより
25  よろしなへ この橘を           よろしなへ このたちばなを
26  時じくの かくの木の実と 名付けけらしも ときじくの かくのこのみと なづけけらしも

意味:

1   言葉に出して言うことも なんとも不思議に恐れ多い
2   天皇の 神の天皇がお治めになる世に
3   田道間守(たぢまもり、古代人)は 常世国(海の異郷で永遠不変の国)に渡って
4   八本の鉾形の実をもって 帰朝した時
5   時じくの 香の木の実(橘)を
6   恐れ多くも この世に残したので
7   国も狭しと 生ひ立ち栄え
8   春になれば 枝から新しい枝が萌えて
9   ホトトギスが 鳴く五月には
10  初めての花を 枝に手折って
11  娘子らに 贈り物として贈ったり
12  白い布の 袖にもしごいて入れ
13  心引き付けられ 置いておいて枯らしてしまったり
14  木から落ちる実は 薬玉に貫きながら
15  手に巻いて 見れば飽きない
16  秋になると しぐれの雨降り
17  長く裾を引いた 山のこづえは
18  紅色に 匂い散れども
19  橘の 成熟したその実は
20  ひたすら照り輝き たいへん見映えが良く
21  美しい雪降る 冬に至れば
22  霜が積もっても その葉は枯れず
23  いつまでも変わらないで いよいよ益々照り栄えて
24  そうだからこそ 神の御代より
25  様子が良い この橘を
26  時じく(非時)の 香実(かぐのみ)と 名付けたらしい

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌の中に出てくる田道間守(たじまもり、日本書記)、古事記によると多遅摩毛理(たじまもり)は、日本書記にも古事記にも垂仁天皇の章の最後の部分に出てくる。垂仁天皇天皇を「たじまもり」を常世国に使わせて非時(時じく)の香の木の実を求めさせた。この実はいまでいう橘のことです。この9年後に垂仁天皇は崩御された。翌年の春に「たじまもり」はその木を取って常世国から戻ってきた。この木は、蔓の形になっているもの8本、鉾の形になっているもの8本です。このときすでに天皇は、お隠れになっていたので、これを捧げて叫び鳴いて「常世国の時じくの香の木の実を持って参上致しました」と申して遂に叫び死にました。というものです。この歌のタイトルは「橘の歌」となっています。

 

第18巻4116

(この歌は17章でも取り上げられました。)

1   大君の 任きのまにまに      おほきみの まきのまにまに
2   取り持ちて 仕ふる国の      とりもちて つかふるくにの
3   年の内の 事かたね持ち      としのうちの ことかたねもち
4   玉桙の 道に出で立ち       たまほこの みちにいでたち
5   岩根踏み 山越え野行き      いはねふみ やまこえのゆき
6   都辺に 参ゐし我が背を      みやこへに まゐしわがせを
7   あらたまの 年行き返り      あらたまの としゆきがへり
8   月重ね 見ぬ日さまねみ      つきかさね みぬひさまねみ
9   恋ふるそら 安くしあらねば    こふるそら やすくしあらねば
10  霍公鳥 来鳴く五月の       ほととぎす きなくさつきの
11  あやめぐさ 蓬かづらき      あやめぐさ よもぎかづらき
12  酒みづき 遊びなぐれど      さかみづき あそびなぐれど
13  射水川 雪消溢りて        いみづかは ゆきげはふりて
14  行く水の いや増しにのみ     ゆくみづの いやましにのみ
15  鶴が鳴く 奈呉江の菅の      たづがなく なごえのすげの
16  ねもころに 思ひ結ぼれ      ねもころに おもひむすぼれ
17  嘆きつつ 我が待つ君が      なげきつつ あがまつきみが
18  事終り 帰り罷りて        ことをはり かへりまかりて
19  夏の野の さ百合の花の      なつののの さゆりのはなの
20  花笑みに にふぶに笑みて     はなゑみに にふぶにゑみて
21  逢はしたる 今日を始めて     あはしたる けふをはじめて
22  鏡なす かくし常見む 面変りせず かがみなす かくしつねみむ おもがはりせず

意味:
1   天皇陛下の 与えた仕事の通りに
2   取り仕切って お仕えする国の
3   年内の 政務報告書を持って
4   素晴らしい 道に旅に立つ
5   岩や根を踏み 山を越え野を行き
6   都に 参上した主人を
7   新しく素晴らしい 年が変わり
8   月が重なり 逢えない日が長くなるので
9   恋しく悲しく 心が穏やかでない
10  ホトトギスが 来て鳴く五月の
11  アヤメ草 ヨモギを髪飾りにして
12  酒を飲んで 気を静めようと遊んだけれども
13  射水川(今の小矢部川、富山県西部)は 雪溶水があふれ
14  流れて行く水が(あなたへの恋しさを意味している) いよいよ増すばかりだ
15  鶴が鳴く 奈呉江(富山県新湊市の西部海浜)のスゲ(雑草、カヤツリグサ科)の
16  完全に 思いが塞(ふさ)がれ
17  嘆きながら 私が待っているあなたが
18  仕事が終わって 都から帰って
19  夏の野の 百合の花が咲くように
20  花が咲くような笑みで にこにこと笑顔作り
21  逢ってくださる 今日から
22  鏡を見るように このまま常に逢っていたい 年をとって顔が変わることもなく
作者:
稼久米朝巨広繻(じょうくめのあそみひろつな)が天平20年(748年、聖武天皇の時代)に、律令制のルールで任地の前年の8月1日より1年間の業務評価に必要な資料などの行政文書の提出や行政報告のために中央に派遣された使者と一緒に京に入った。報告が終わって、天平感宝元年の閏5月27日(この年は5月が2回あった)に元の任地に帰る。そこで長官の館に詩酒の宴を設けて楽しく飲んだ。そのときに主人守大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)が作った歌。

 

第18巻4119

いにしへよ 偲ひにければ 霍公鳥 鳴く声聞きて 恋しきものを

 

いにしへよ しのひにければ ほととぎす なくこゑききて こひしきものを

意味:

遠い昔を 偲べば ホトトギスの 鳴き声を聞いて 恋しいものを思い出します

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスの鳴くを聞いて作る歌」となっています。

 

第19巻4166

1   時ごとに いやめづらしく         ときごとに いやめづらしく
2   八千種に 草木花咲き           やちくさに くさきはなさき
3   鳴く鳥の 声も変らふ           なくとりの こゑもかはらふ
4   耳に聞き 目に見るごとに         みみにきき めにみるごとに
5   うち嘆き 萎えうらぶれ          うちなげき しなえうらぶれ
6   偲ひつつ 争ふはしに           しのひつつ あらそふはしに
7   木の暗の 四月し立てば          このくれの うづきしたてば
8   夜隠りに 鳴く霍公鳥           よごもりに なくほととぎす
9   いにしへゆ 語り継ぎつる         いにしへゆ かたりつぎつる
10  鴬の 現し真子かも            うぐひすの うつしまこかも
11  あやめぐさ 花橘を            あやめぐさ はなたちばなを
12  娘子らが 玉貫くまでに          をとめらが たまぬくまでに
13  あかねさす 昼はしめらに         あかねさす ひるはしめらに
14  あしひきの 八つ峰飛び越え        あしひきの やつをとびこえ
15  ぬばたまの 夜はすがらに         ぬばたまの よるはすがらに
16  暁の 月に向ひて             あかときの つきにむかひて
17  行き帰り 鳴き響むれど なにか飽き足らむ ゆきがへり なきとよむれど なにかあきだらむ

 

意味:

1   時毎に いや、すばらしく
2   たくさんの 草木に花が咲き
3   鳴く鳥の 声も変わる
4   耳に聞き 目に見るごとに
5   溜息をつき 深く心打たれて
6   あれも良いこれも良いと 心で決めかねているうちに
7   木の下の暗い所で 四月になれば
8   夜遅く 鳴くホトトギス
9   遠い昔から 語り継がれる
10  ウグイスの まさに子そのものかも
11  菖蒲草と 花橘を
12  乙女らが 玉貫くまでに
13  美しく照り輝く 昼は休みなく
14  麓を長く引いた 八つ峰飛び越え
15  真っ暗な 夜はづっと
16  夜明け前の 月に向って
17  行ったり来たりして 鳴き声を響かすけれども なにか飽きてしまうことなどないだろう

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは「ホトトギスに合わせて時の花を読む歌」となっています。

 

第18巻4168

毎年に 来鳴くものゆゑ 霍公鳥 聞けば偲はく 逢はぬ日を多み

 

としのはに きなくものゆゑ ほととぎす きけばしのはく あはぬひをおほみ

意味:

毎年 来て鳴くものですから ホトトギスの声を 聞けば心にしみるよ その声を聞けない日が多かったので

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、18.12章の4166の「ホトトギスに合わせて時の花を読む歌」の反歌として詠われたもの。

 

第18巻4169

1    霍公鳥 来鳴く五月に       ほととぎす きなくさつきに
2   咲きにほふ 花橘の        さきにほふ はなたちばなの
3   かぐはしき 親の御言       かぐはしき おやのみこと
4   朝夕に 聞かぬ日まねく      あさよひに きかぬひまねく
5   天離る 鄙にし居れば       あまざかる ひなにしをれば
6   あしひきの 山のたをりに     あしひきの やまのたをりに
7   立つ雲を よそのみ見つつ     たつくもを よそのみみつつ
8   嘆くそら 安けなくに       なげくそら やすけなくに
9   思ふそら 苦しきものを      おもふそら くるしきものを
10  奈呉の海人の 潜き取るといふ   なごのあまの かづきとるといふ
11  白玉の 見が欲し御面       しらたまの みがほしみおもわ
12  直向ひ 見む時までは       ただむかひ みむときまでは
13  松柏の 栄えいまさね 貴き我が君 まつかへの さかえいまさね たふときあがきみ

意味:

1   ホトトギスが 来て鳴く五月に
2   咲き匂う 花橘の
3   香しい 母のお言葉
4   朝夕に 聞けない日は好ましくない事態をもたらします
5   天遠く離れている 地方にいれば
6   裾を長くの延ばした 山の尾根に
7   立つ雲を 遠くから見るばかりで
8   嘆く心は 安らかでない
9   思う心は 苦しいものだ
10  奈呉(高岡市から新湊市の付近)の海人は 水中に潜って取るという
11  真珠のような 美しい顔
12  直接向かって 逢える時まで
13  松や柏(かしわ)のように 変わらずにいてください 貴き我が君

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、家婦(家持の妻、坂上大嬢)の京にいる尊母(坂上郎女)に贈るために頼まれて作る歌となっています。

 

第18巻4171

常人も 起きつつ聞くぞ 霍公鳥 この暁に 来鳴く初声

つねひとも おきつつきくぞ ほととぎす このあかときに きなくはつこゑ

意味:

普通の人は 起きている時に聞きます ホトトギスの声を この夜明け前に 来て鳴くのは初声です

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは24日は立夏四月の節にあたる。これによりて23日の暮れに、たちまちにホトトギスの明け方前に鳴く声を思って作る歌2首」となっています。2首目の歌は、次の4172です。

 

第18巻4172

霍公鳥 来鳴き響めば 草取らむ 花橘を 宿には植ゑずて

ほととぎす きなきとよめば くさとらむ はなたちばなを やどにはうゑずて

意味:

ホトトギスが 来て鳴き響かせれば 野に出て草を取ってその声を聞こう 橘の花を 自分の家には植えないで

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4171と対になっている歌で、4171が鳴き始め、4172は、盛んに鳴く頃を歌っています。

 

第18巻4175

霍公鳥 今来鳴きそむ あやめぐさ かづらくまでに 離るる日あらめや

 

ほととぎす いまきなきそむ あやめぐさ かづらくまでに かるるひあらめや

意味:

ホトトギスが 今来て鳴き始めました 菖蒲草を蔓にする節句までに どこかに行ってしまう日などあろうか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌にタイトルは、「ホトトギスを詠む歌2首」となっています。

 

第18巻4176

我が門ゆ 鳴き過ぎ渡る 霍公鳥 いやなつかしく 聞けど飽き足らず

 

わがかどゆ なきすぎわたる ほととぎす いやなつかしく きけどあきたらず

意味:

私の家の門を通って 鳴き過ぎ渡る ホトトギスよ 大変なつかしく 聞いていると飽きることはないよ 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌にタイトルは、「ホトトギスを詠む歌2首」の内の二つ目の歌です。

 

第18巻4177

1   我が背子と 手携はりて       わがせこと てたづさはりて
2   明けくれば 出で立ち向ひ      あけくれば いでたちむかひ
3   夕されば 振り放け見つつ      ゆふされば ふりさけみつつ
4   思ひ延べ 見なぎし山に       おもひのべ みなぎしやまに
5   八つ峰には 霞たなびき       やつをには かすみたなびき
6   谷辺には 椿花咲き         たにへには つばきはなさき
7   うら悲し 春し過ぐれば       うらがなし はるしすぐれば
8   霍公鳥 いやしき鳴きぬ       ほととぎす いやしきなきぬ
9   独りのみ 聞けば寂しも       ひとりのみ きけばさぶしも
10  君と我れと 隔てて恋ふる      きみとあれと へだててこふる
11  砺波山 飛び越え行きて       となみやま とびこえゆきて
12  明け立たば 松のさ枝に       あけたたば まつのさえだに
13  夕さらば 月に向ひて        ゆふさらば つきにむかひて
14  あやめぐさ 玉貫くまでに      あやめぐさ たまぬくまでに
15  鳴き響め 安寐寝しめず 君を悩ませ なきとよめ やすいねしめず きみをなやませ

意味:

1   私の主人(池主)と 手を取り合って
2   夜が明け”>明けると 表に出て面と向かって立ち
3   夕方になると はるか遠くを望み見て
4   思いを述べた 見ては心をなぐさめた山(二上山、富山県高岡市)に
5   多くの山々には 霞がたなびき
6   谷のあたりには 椿の花が咲き
7   うら悲しい 春が過ぎれば
8   ホトトギスが ますます鳴く
9   一人でのみ 聞いているのは寂しいので
10  君と私が 離れて恋し合っている
11  砺波山(富山・石川県境にある)を 飛び越えて行って
12  夜が明け始めれば 松の枝の上で
13  夕方になったら 月に向って
14  菖蒲草を 玉に貫くまでの間
15  鳴き声を響かせて 熟睡し寝ることができないように 君を悩ませよ

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「4月3日の越前の判官大伴池主に贈るホトトギスの歌、感旧の心に勝てずに思いを述べる」となっている。感旧の心とは、池主と一緒に行動したことを懐かしむ心のことです。

 

第18巻4178

我れのみし 聞けば寂しも 霍公鳥 丹生の山辺に い行き鳴かにも

われのみし きけばさぶしも ほととぎす にふのやまへに いゆきなかにも

意味:

私一人で 聞けば寂しいことよ ホトトギスよ 丹生の山の辺りに 行って鳴いてください

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4177の反歌で、池主に対する思いを歌っています。丹生の山は越前国府のあった武生市西方の山です。

 

第18巻4179

霍公鳥 夜鳴きをしつつ 我が背子を 安寐な寝しめ ゆめ心あれ

 

ほととぎす よなきをしつつ わがせこを やすいなねしめ ゆめこころあれ

意味:

ホトトギスよ 夜鳴きをしながら 私の主人(池主)を 熟睡して寝かせ 夢を見させてくださいな

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌も、4177の反歌です。前の歌と同様に池主に対する思いを歌っています。

 

第18巻4180

1   春過ぎて 夏来向へば        はるすぎて なつきむかへば
2   あしひきの 山呼び響め       あしひきの やまよびとよめ
3   さ夜中に 鳴く霍公鳥        さよなかに なくほととぎす
4   初声を 聞けばなつかし       はつこゑを きけばなつかし
5   あやめぐさ 花橘を         あやめぐさ はなたちばなを
6   貫き交へ かづらくまでに      ぬきまじへ かづらくまでに
7   里響め 鳴き渡れども なほし偲はゆ さととよめ なきわたれども なほししのはゆ

意味:

1   春が過ぎて 夏が来る季節に向へば
2   尾根を長く引いた 山のやまびことなって響く
3   真夜中に 鳴くホトトギスの
4   初声を 聞くとなつかしい
5   菖蒲草と 花橘を
6   貫いて交へ 髪飾りになるまでに
7   里で鳴き響かせよ 鳴き渡っても なほ心引かれるよ

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスを感じる心に飽かずして、思いを述べて作る歌」となっています。

 

第19巻4181

さ夜更けて 暁月に 影見えて 鳴く霍公鳥 聞けばなつかし

 

さよふけて あかときつきに かげみえて なくほととぎす きけばなつかし

意味:

夜も非常に遅くなった時 夜明け近くのまだ暗い時分に 影が見えて 鳴くホトトギスの声を 聞けばなつかしい

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、18.14章の第18巻4180の3つの反歌の1番目です。

 

第19巻4182

霍公鳥 聞けども飽かず 網捕りに 捕りてなつけな 離れず鳴くがね

 

ほととぎす きけどもあかず あみとりに とりてなつけな かれずなくがね

意味:

ホトトギスの声は 聞いて飽きることがありません 網に掛けて 捕らえなじませ 離れず鳴かせたい 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、18.14章の第18巻4180の3つの反歌の2番目です。

 

第19巻4183

霍公鳥 飼ひ通せらば 今年経て 来向ふ夏は まづ鳴きなむを

 

ほととぎす かひとほせらば ことしへて きむかふなつは まづなきなむを

意味;

ホトトギスを づっと飼い続けたら 今年を過ぎて 向かってくる夏は 何はさておき必ず鳴いて欲しいです

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、18.14章の第18巻4180の3つの反歌の3番目です。

 

第19巻4189

1   天離る 鄙としあれば          あまざかる ひなとしあれば
2   そこここも 同じ心ぞ          そこここも おやじこころぞ
3   家離り 年の経ゆけば          いへざかり としのへゆけば
4   うつせみは 物思ひ繁し         うつせみは ものもひしげし
5   そこゆゑに 心なぐさに         そこゆゑに こころなぐさに
6   霍公鳥 鳴く初声を           ほととぎす なくはつこゑを
7   橘の 玉にあへ貫き           たちばなの たまにあへぬき
8   かづらきて 遊ばむはしも        かづらきて あそばむはしも
9   大夫を 伴なへ立てて          ますらをを ともなへたてて
10  叔羅川 なづさひ上り          しくらがは なづさひのぼり
11  平瀬には 小網さし渡し         ひらせには さでさしわたし
12  早き瀬に 鵜を潜けつつ         はやきせに うをかづけつつ
13  月に日に しかし遊ばね 愛しき我が背子 つきにひに しかしあそばね はしきわがせこ

意味:

1   都から天遠く離れている 田舎住まいとなれば
2   いたるところで 同じ気持ちである
3   家を離れて 年月が経て行けば
4   生きている人間は 物思が激しい
5   それだから 心に安らぎを与えるために
6   ホトトギスの 鳴く初声を
7   橘の花を 薬玉と一緒に糸で貫き 
8   髪飾りにして 遊ぶその頃にでも  
9   立派な男性を お伴させ連れだって
10  叔羅川(福井県武生市の川?)を 水にもまれて上り
11  流れの緩やかな浅瀬には 小網をさし渡して
12  流れの早い瀬には 鵜(う)を水中に潜らせる
13  月ごと日ごと そのようにして遊んではどうでしょか 愛しき私の主人よ

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「鵜を越前の判官大伴池主に贈る歌」なっています。

 

第19巻4192

1   桃の花 紅色に              もものはな くれなゐいろに
2   にほひたる 面輪のうちに         にほひたる おもわのうちに
3   青柳の 細き眉根を            あをやぎの ほそきまよねを
4   笑み曲がり 朝影見つつ          ゑみまがり あさかげみつつ
5   娘子らが 手に取り持てる         をとめらが てにとりもてる
6   まそ鏡 二上山に             まそかがみ ふたがみやまに
7   木の暗の 茂き谷辺を           このくれの しげきたにへを
8   呼び響め 朝飛び渡り           よびとよめ あさとびわたり
9   夕月夜 かそけき野辺に          ゆふづくよ かそけきのへに
10  はろはろに 鳴く霍公鳥          はろはろに なくほととぎす
11  立ち潜くと 羽触れに散らす        たちくくと はぶれにちらす
12  藤波の 花なつかしみ           ふぢなみの はななつかしみ
13  引き攀ぢて 袖に扱入れつ 染まば染むとも ひきよぢて そでにこきれつ しまばしむとも

意味:

1   桃の花のような 紅色に
2   匂う 顔の
3   青柳のような 細い眉が
4   曲がるほどに微笑んで 朝、鏡に映した姿を見ながら
5   少女たちが 手に取り持った
6   よく澄んだ鏡 二上山に
7   木の下であたりが暗い 茂った谷辺を
8   鳴き声を響かせて 朝飛び渡り
9   日暮れ方の月が 薄く見える野辺に
10  はるばると 鳴くホトトギス
11  花の間を潜り抜けて 羽触れて散らす
12  ゆれる藤の花の波を 懐かしいと思い
13  引きつかんで寄せて しごいて取って袖に入れる 衣類が染ってしまってもよいから

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスに合わせて藤の花を読む」となっています。

 

第19巻4193

霍公鳥 鳴く羽触れにも 散りにけり 盛り過ぐらし 藤波の花

 

ほととぎす なくはぶれにも ちりにけり さかりすぐらし ふぢなみのはな

意味:

ホトトギスが 鳴きながら羽ばたいて羽が触れても 散ってしまう 盛りを過ぎた 藤の揺れる花  

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4192の反歌です。

 

第19巻4194

霍公鳥 鳴き渡りぬと 告ぐれども 我れ聞き継がず 花は過ぎつつ

 

ほととぎす なきわたりぬと つぐれども われききつがず はなはすぎつつ

意味:

ホトトギスが 鳴いて渡ったと 人は告げてくれたけれど 私はずっと聞いていない 花の時期は過ぎているのに

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「さらに、ホトトギスの鳴くことが遅いのを恨む歌3首」となっています。

 

第19巻4195

我がここだ 偲はく知らに 霍公鳥 いづへの山を 鳴きか越ゆらむ

 

わがここだ しのはくしらに ほととぎす いづへのやまを なきかこゆらむ

意味:

私はここにいる 思い慕っているこを知らないで ホトトギスは どのあたりの山を 鳴いて超えて行くのか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「さらに、ホトトギスの鳴くことが遅いのを恨む歌3首」の2首目の歌です。

 

第19巻4196

月立ちし 日より招きつつ うち偲ひ 待てど来鳴かぬ 霍公鳥かも

 

つきたちし ひよりをきつつ うちしのひ まてどきなかぬ ほととぎすかも

意味:

月が変わった 日より招きながら 思い慕って 待っているが来て鳴かない ホトトギスだね 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「さらに、ホトトギスの鳴くことが遅いのを恨む歌3首」の3首目の歌です。

 

第19巻4203

家に行きて 何を語らむ あしひきの 山霍公鳥 一声も鳴け

 

いへにゆきて なにをかたらむ あしひきの やまほととぎす ひとこゑもなけ

意味:

家に行って 何を語ろうか すそを長く引く 山のホトトギス 一声でも鳴いておくれ

作者:

久米広縄(くめのひろただ/ひろつな)万葉集中に9首の歌を残した。大伴家持との関係が深い。

 

第19巻4207

1   ここにして そがひに見ゆる       ここにして そがひにみゆる
2   我が背子が 垣内の谷に         わがせこが かきつのたにに
3   明けされば 榛のさ枝に         あけされば はりのさえだに
4   夕されば 藤の繁みに          ゆふされば ふぢのしげみに
5   はろはろに 鳴く霍公鳥         はろはろに なくほととぎす
6   我が宿の 植木橘            わがやどの うゑきたちばな
7   花に散る 時をまだしみ         はなにちる ときをまだしみ
8   来鳴かなく そこは恨みず        きなかなく そこはうらみず
9   しかれども 谷片付きて         しかれども たにかたづきて
10  家居れる 君が聞きつつ 告げなくも憂し いへをれる きみがききつつ つげなくもうし

意味:

1   ここ(家持の館)にして 背後に見える
2   私の主人の 垣根の中の谷(広縄の館がある)に
3   朝が明ければ ハンノキの枝に
4   夕方になれば 藤の繁みに
5   遥々と 鳴くホトトギス
6   私の家の 庭の橘の木は
7   花が散るには 時期が早いので
8   まだ来て鳴かない そこは恨まない
9   しかし 一方が谷に面している
10  家に居る 君が聞いても そのことを告げてくれないのはつらい

作者:大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「22日に判官久米朝臣広縄に贈るホトトギスを恨む歌」となっています。

ハンノキ

 

上のハンノキの写真で、細長いのは雄花で丸いのは雌花です。ハンノキは、冬の2月から3月に花を付けます。写真は2月中旬です。

 

第19巻4208

我がここだ 待てど来鳴かぬ 霍公鳥 ひとり聞きつつ 告げぬ君かも

 

わがここだ まてどきなかぬ ほととぎす ひとりききつつ つげぬきみかも

意味;

私はここだ 待てど来て鳴かない ホトトギスを 一人聞いているのに 告げない君なのか

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌は、4207の反歌です。

 

第19巻4209

1   谷近く 家は居れども          たにちかく いへはをれども
2   木高くて 里はあれども         こだかくて さとはあれども
3   霍公鳥 いまだ来鳴かず         ほととぎす いまだきなかず
4   鳴く声を 聞かまく欲りと        なくこゑを きかまくほりと
5   朝には 門に出で立ち          あしたには かどにいでたち
6   夕には 谷を見渡し           ゆふへには たにをみわたし
7   恋ふれども 一声だにも いまだ聞こえず こふれども ひとこゑだにも いまだきこえず

意味:

1   谷の近くに 家はあるが
2   木が高い 里であるが
3   ホトトギスは いまだ来て鳴きません
4   鳴く声を 聞きたいと思って
5   朝には 門に出でて立ち
6   夕には 谷を見渡し
7   恋いしているが 一声も いまだ聞こえません

作者:

久米広縄(くめのひろただ/ひろつな)この歌は大伴家持の4207に対する応答になっています。

 

第19巻4210

藤波の 茂りは過ぎぬ あしひきの 山霍公鳥 などか来鳴かぬ

 

ふぢなみの しげりはすぎぬ あしひきの やまほととぎす などかきなかぬ

意味:

藤の花の波の 茂りは過ぎてしまったが 裾を長く伸ばした 山のホトトギスは どうして来て鳴かないのか

作者:

久米広縄(くめのひろただ/ひろつな)この歌は、4209に対する反歌です。

 

第19巻4239

二上の 峰の上の茂に 隠りにし その霍公鳥 待てど来鳴かず

 

ふたがみの をのうへのしげに こもりにし そのほととぎす まてどきなかず

意味:

二上山の 峰の上の茂みの中に 隠れている ホトトギス 待っているが来て鳴かない 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは「ホトトギスを詠む歌1首」となっています。

 

第20巻4305

木の暗の 茂き峰の上を 霍公鳥 鳴きて越ゆなり 今し来らしも

 

このくれの しげきをのへを ほととぎす なきてこゆなり いましくらしも

意味:

木の下の暗く 茂った峰の上を ホトトギスが 鳴いて越える 今にもこの里に来るらしい 

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)この歌のタイトルは、「ホトトギスを詠む歌1首」となっています。

 

第20巻4437

霍公鳥 なほも鳴かなむ 本つ人 かけつつもとな 我を音し泣くも

 

ほととぎす なほもなかなむ もとつひと かけつつもとな あをねしなくも

意味:

ホトトギスよ ますます鳴いてしまおう 亡き人を むやみに呼んで 私も声を出して泣く

作者:

元正天皇(げんしょうてんのう)天智天皇の崩御後、立太子していた24歳の草壁皇子(父、天武天皇、母、皇后鵜野讃良)が若さと当時発生した事件の関係で即位することなく、皇后鵜野讃良が持統天皇として即位する。この3年後には、草壁皇子は薨去する。持統天皇は7年後に、草壁皇子の子(軽皇子,14歳)に譲位(文武天皇の誕生)、すなわち自分の孫に譲位して自分は、持統太上天皇として政権(初めての院政)を維持する。しかし文武天皇は25歳で病気で崩御してしまった。持統太上天皇はこの3年前に崩御している。文武天皇の後を継いだのは、文武天皇の母親、すなわち草壁皇子の妃で、元明天皇です。これは、文武天皇の子、首(後の聖武天皇)が6歳と小さかったために中継ぎとして即位したものです。元明天皇は、7年後(首、13歳)に、娘の氷高(ひたか)に譲位する。この氷高がこのホトトギスの歌の作者である元正天皇である。元正天皇は、日本で初めて、母から娘に譲位された天皇である。この歌の中で、氷高は、亡き人を大声で呼んで泣いてしまおうと歌っているが、氷高が天皇になるまでに、また、なってからもたくさんの親しい人たちが病気や戦いや落としめられて亡くなっているので、その人達を思い出して泣いてしまおうと歌っているのである。氷高に最も近くで亡くなった人たちには、藤原氏の陰謀て自殺に追い込まれた長屋王や長屋王に嫁いでいた妹の吉備内親王などがいる。

 

第20巻4438

霍公鳥 ここに近くを 来鳴きてよ 過ぎなむ後に 験あらめやも

 

ほととぎす ここにちかくを きなきてよ すぎなむのちに しるしあらめやも

意味:

ホトトギスよ ここの近くに 来て鳴きなさい この時を過ごした後では 霊験があるだろうかそうなことはないな

作者:

薩妙觀(さつ みょうかん)元正天皇に仕えた女官、万葉集には3首の歌がある。

 

第20巻4463

霍公鳥 まづ鳴く朝明 いかにせば 我が門過ぎじ 語り継ぐまで

 

ほととぎす まづなくあさけ いかにせば わがかどすぎじ かたりつぐまで

意味:

ホトトギスが 最初に鳴く朝明け どうすれば 私の家の門を素通りしないようにできるか 語り草になる程に

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)

 

第20巻4464

霍公鳥 懸けつつ君が 松蔭に 紐解き放くる 月近づきぬ

ほととぎす かけつつきみが まつかげに ひもときさくる つきちかづきぬ

意味:

ホトトギスを 心にかけながら皆で 松の陰で くつろぎ語り合って思いを晴らす 待っていた月が近づいた  

作者:

大伴宿禰家持(おおとものすくねやかもち)さすがに家持の歌は難しいです。